【論文(査読無し)】 受領:子供問題研究会より機関紙『ゆきわたり』他 森下 摩利(立命館大学大学院先端総合学術研究科)
2023.04 『遡航』007号 pp.54-56
要旨

1. 子供問題研究会とは

子供問題研究会(東京都文京区に所在、以下、子問研)は、「勉強が出来ても出来なくても、校区の普通学級へ」(『ゆきわたり』491、2016)、そして「『障害』があってもなくても『地域で共に生きる、共に育つ』」(子供問題研究会[2020])ことを目指し、1972年5月に篠原睦治(当時、東京教育大学特殊教育学科助手)★01を中心に発足した会である。 子問研発足の足がかりとなったのは、東京教育大学で篠原たちがはじめた「教育を考える会」である。当時、篠原たち専門家は個別に「障害児」の普通学校就学に関する教育相談を行っていたが、専門家だけで解決するのは「やはり変だ」とし、親たちに広く呼びかけ「教育相談を公開する、共同化する、一緒に考える」ことを目指した(『ゆきわたり』503、2017)。これが「教育を考える会」である。「教育を考える会」の開催案内や会の報告を掲載するために機関紙『ゆきわたり』が発行され、これらを主導する会として子問研が発足した。  子問研の会員には、子ども、親、きょうだい、教員、学生、元学生、専門家などさまざまな立場の人がいる。現在まで続く活動としては、「春の討論集会」(以下、春討)や、教育やそれ以外の相談も受ける「よろず相談」、また「夏の合宿」「丸太小屋づくり」などの「遊び場」の企画などがある。春討は毎年3月の終わりから4月のはじめにおこなわれる2日間討論会で、今年で48回目となる。これまで扱ってきたテーマは「薬と医療」「心臓病と行動管理表」「特殊教育・養護学校義務化」「3歳児健診や就学時健診」「胎児チェックと優生保護法」「バリアフリーの功罪」「0点でも高校へ」「働き場所を求めて」「津久井やまゆり園事件」(子供問題研究会[2018])などがあり、春討の様子は『ゆきわたり』に詳しく報告される。  また、1987年~2008年まで「こもん軒」という定食屋を有限会社として経営しており、「障害」のある人もない人も同一賃金で働くことを実践した(『ゆきわたり』503号、2017、中田[2017])。  このように、子問研は「教育」問題を中心に据えながら、「共に生きる」ことを思考し実践する場でもあった。子問研の提唱する「共に生き共に育つ」とは、「障害」を深く理解し配慮しあうような関係ではなく、「障害」「健常」などの区別を取り払い「ごちゃごちゃ一緒にいる」なかで「ぶつかり合い」ながら「せめぎ合い生きる」ことである。

2. 『ゆきわたり』の概略

『ゆきわたり』は1972年5月に第1号が発刊され、その後は8月を除き(8月は休刊)毎月発行されている。2023年3月に562号が発行された。一時期は月に約1100部発行されていたが、2018年の時点で月約450部の発行である(『ゆきわたり』510、2018)。  体裁は縦B4版の右綴じ(ホチキス留め)で、多くのページが3段組の縦書きとなっている。2016年から希望する会員にはテキストデータも提供しており、Microsoft Wordの「文字カウント」機能を用いると、表紙や目次も含め1部は約3万~7万字になる。  子問研から寄贈してもらったのは、11号(1973年4月)~559号(2022年12月)までの約550部である。1号(1972年5月)~10号(1973年3月)と14号(1973年7月)は保管がなかったが、これらの内容は『共に生きる――「ゆきわたり」第一期総括集』(子供問題研究会編[1973])で知ることができる。  『ゆきわたり』のバックナンバーは、子問研の事務所と篠原氏の自宅にそれぞれ保管されており、それをいちど子問研の事務所に集めたのち、立命館大学生存学研究所(以下、生存学研究所)に1部ずつ寄贈してもらった。同誌の閲覧は、東京の子問研事務所および京都の同研究所の書庫で可能である。

3. 寄贈の経緯

筆者は長年、盲ろう者の支援を行っている。盲ろう者の支援を始めたのは和光大学在学中(1994年~1998年)で、同大学の教授だった篠原氏とその頃に出会った。盲ろう者の運動史を研究するために、2022年に立命館大学大学院先端総合学術研究科に入学した。同じ研究科内に統合教育を提唱する北村小夜の研究(竹村・増田[2022])や、筑波技術短期大学設置反対闘争を研究する院生がおり(山口[2023])、「共に生き共に育つ」思想のもと「分離教育」に抗ってきた子問研の実践と言葉から多くを学ぶことができると考えている。  筆者は学部生時代に篠原氏の「共生論」に影響を受け、サークルで、ろう学生や視覚障害学生、肢体不自由学生と、筆者のような「健常」とされる学生が「ごちゃごちゃ一緒にいる」ことを実践してきた。学内の保障をめぐり篠原氏と学生側は意見が対立したが、こうした経験が盲ろう者の活動に関わるきっかけとなった。今回、子問研に『ゆきわたり』の寄贈をお願いしたのは、上の理由に加え、盲ろう者の運動史を研究するうえで自分の活動の原点ともなる篠原的「共生論」を再考する必要があると感じたからである。  以下、資料受け入れまでの流れを記しておく。

2022年 12月5日  篠原氏にメールおよび電話によって『ゆきわたり』を生存学研究所に寄贈してもらいたい旨を申し出、快諾をもらう。 12月25日 『ゆきわたり』の分量や寄贈の作業工程を確認するため子問研事務所を訪問。寄贈分はすでに整理され箱に収めてあった。 2023年 1月11日  子問研事務所を訪問し『ゆきわたり』を発送。 1月13日  生存学研究所の書庫に届く。

4. 『ゆきわたり』の電子化と共有

今後は『ゆきわたり』の画像データ化を進め、子問研と生存学研究所とで共有する予定である。可能であればテキストデータ化も行う。生存学研究所のWEBサイトに各号の目次を掲載することも検討する。これらの作業を子問研と連絡をとりながら進める予定である。