1.1 問題の背景と先行研究
「近代の日本の障害者雇用施策は、1960年に制定された『身体障害者雇用促進法(現・障害者の雇用の促進等に関する法律)』に始まり、「現在の日本の障害者雇用制度の根幹をつくっている」のが「義務雇用制度」である(手塚2000:1)。これは「民間企業、国、地方公共団体等の事業主に対し、その雇用する労働者に占める障害者の割合が一定率(障害者雇用率★1)以上になるよう義務づける制度である」(永野ほか2018:94)。
2018年、国や地方の行政機関で、「法で定められた障害者に該当しない職員を雇用障害者に算入」(中村2020:38)するという障害者雇用者数の不適切計上(水増し)が発覚したことを受け、文部科学省は2019年4月「教育委員会における障害者雇用推進プラン」を策定し公表した(文部科学省 2019)。これは障害のある教員(以下、「障害教員」)の雇用推進が、国・地方において重要な政策課題として顕在化したことを示している。
しかし、障害教員の雇用を推進するにしても、現状がどのようなものであるのか、その実態を示すデータは、これまで厚生労働省の集計結果が公表される程度であり、雇用が低迷していると言われている実相や、その要因を分析する詳細な資料は存在しないか、入手困難であった。
「障害のある先生」をテーマとした学術研究の成果を最初に書籍化した照山絢子らは、「『障害のある先生』を含む教職員数に関するデータや、「障害のある先生」のうちで二〇〇一年度以降の採用人数に関するデータはわかるが、いずれも帯に短したすきに長しといったかたちで、『障害のある先生はどれくらいいるのか』という問いに対してはっきりした人数を提示するものではない。さらに、そもそもこの問いに内在する問題として、「障害」をどう定義するのか、数えるのか、という問題がある」と指摘し、その実態把握の困難を示している(照山ほか 2018:35)。
また、障害教師論という新たな学問分野を提唱した中村雅也は、障害教員をめぐる政策の歴史と現状を詳細に調査、分析しているが、そのなかで関係省庁の公開・非公開のデータを入手して、1996年以降の障害教員の雇用の実態把握に努めた(中村 2020)。
本稿では、この中村の研究成果をふまえつつ、1995年以前の障害教員雇用の状況と、1996年以降の、より詳細な状況を示す資料を探索し、新たに入手した資料によってその実態の一端を示そうと試みた。
また、障害教員の雇用が進まない理由については、「障害者の受験者がいない」「障害者に教員免許を持っている人が少ない」★2と言われることが多いが、それらの教育委員会の説明の妥当性は検証されずにきた。なぜ障害教員の雇用が進まないのかは大きな問題であるが、その要因の分析抜きには事態の改善は見通せないだろう。本稿では、多様な要因の1つとして、障害者雇用促進法の雇用義務の除外制度とその政策運用に着目して検討する。
障害者雇用促進法に関する研究は、おもに法学の分野で、初期には労働省の元幹部職員が法律の解説という形でおこない(堀1961; 遠藤1977)、2000年以降になると障害法の学術的な知見の蓄積のなかで深められてきた(手塚2000; 菊池ほか2015; 永野ほか2018)。そのなかで障害教員に焦点が当てられることはなく、法律施行令等の別表に除外職種としての小学校教員等が例示されていても、それ以上の言及はない。
障害教員の雇用問題は、本稿で明らかにされるように、すくなくとも1990年代半ばまでは、統計すらなく、資料も公表されない「放置」された問題であったし、その後も取り組まれ出したが、なかなか前進しない課題である。本稿は、教員の問題を障害者雇用の課題の1つとしてとらえ、そこに一条の光を当てて明るみに出そうとする試みである。
1.2 目的と方法
本稿の目的は、日本において障害教員の雇用が進んでこなかった実態と経過を明らかにし、その政策的要因の一端を示すことである。
研究方法は、文献調査であり国の障害者雇用統計、法令・勧告、国会及び地方議会議事録、新聞記事等を探索し分析した。
ここで言う「障害者」の範囲や「障害」の定義については、そのこと自体が学術的検討の対象となるものではあるが、本稿では、障害者雇用促進法(1987年までは身体障害者雇用促進法)と、それに基づく法令、統計をおもな分析対象とするため、法律の定義等を準用し、対象となる障害者の範囲も法律に準拠し、その範囲も法改正に伴って変化している★3。
また、教育委員会等に雇用されている教職員には、職種により大別して、受業等を担当する教育職員(教員)と、それ以外の学校事務等を担当する事務職員等がいるが、本稿では、教育職員(教員)をおもな研究対象として調査を進めた。しかし、本文のなかで明らかとなるが、労働省(厚生労働省)の障害者雇用統計では、雇用義務の除外職種(除外率対象職種)が設定されて職種による区別はあるものの、職種別統計は調査されておらず、教職員全体の数値しか現れない。文部科学省が調査した統計では職種別、学校種別の詳しいデータも調査・公表されるようになったが、これは2020年以降のことであり(文部科学省 2020)、それ以前のデータについては厚生労働省の統計に依拠せざるをえず、教職員のなかには教員以外の事務職員も一定数含まれている。したがって、本稿では、統計に関しては、教員以外の事務職員等も含む教職員全体のデータを扱うことになり、教員を分別して分析することはできず、課題が残った★4。
なお、本稿において、栗川が研究の企画、原稿執筆等を担当し、仲尾が文献の探索と収集、テキスト化、表作成等を分担した。資料の分析や原稿の修正等は、2人が協議し、共同で行った。
2. 障害教員に関する雇用統計公表の推移
2.1 1990年代前半まで統計資料すらない
「障害教員の雇用は進んでいない」と言われるが、それは事実であろうか。障害教員の雇用実態を確認するために、国(厚生労働省)の障害者雇用統計を遡及して調べると、1998年以降の都道府県教育委員会の数値は公表されているが、それ以前のことはわからない★5。
障害教員雇用に関する数値がわかる最も初期のものと思われるのが、1980年4月9日の参議院社会労働委員会での労働省職業安定局長の答弁である。「国及び地方自治体の身障者雇用の状況でございますが……都道府県が1.53%、これは未達成でございます。……一番率の悪いのは都道府県でございますが、都道府県の中をさらに割ってみますと、知事部局は1.98%で達成いたしております。結局法定雇用率を達成していないのは都道府県の非現業的機関ということになりますが、この原因を探ってみますと、教育委員会の関係の雇用率が非常に低い」(参議院1980)ことが指摘されている。1987年5月21日の参議院社会労働委員会でも、都道府県の非現業的機関の雇用率1.57%、教育委員会の雇用率の低さが要因と、7年前と同様に説明されている(参議院1987)。
また、1989年11月1日の参議院決算委員会では、労働省障害者雇用対策課長が「都道府県の……非現業的機関の実際の雇用率は1.59%と相なっておりまして……これは一つには、実はこの都道府県の機関の中には教育委員会が入って」いると述べている。このとき、議員から「具体的にどの省庁がどのような雇用率の達成をしているのか、あるいは都道府県別の雇用率の資料、そういった資料が国会議員が質問のために要望しても出してもらえない」(参議院1989)との発言があり、障害者雇用率の具体的な資料が国会にも示されてこなかったことがわかる。
教育委員会の障害者雇用率の数値が、調査の限り最もはやく確認できる資料として、読売新聞1993年12月2日の記事がある。そこには「労働省調査によると、今年六月時点の雇用率は……都道府県の非現業部門が1.62%。前年より0.02ポイントの増加だが、公共部門ではここだけが、依然として法定雇用率をクリアしていない。その一番の原因は、都道府県の教育委員会が採用する公立中、高校での教職員の採用状況が極めて悪いことにある。今年は1.15%で、ここ十年ほど横ばいの状態が続いており、法定雇用率を達成するには、全国でさらに約5千人の採用が必要という」とある。記事のもととなった労働省調査の内容は確認できていないが、この時期に都道府県非現業的機関から抜き出して、全国の教育委員会合計の障害者雇用率の1.15%という数値が示されたことがわかる。但し、その数値の低さの原因として「都道府県の教育委員会が採用する公立中、高校での教職員の採用状況が極めて悪いこと」を挙げていることについては、後述(3節)の経過との関連で、慎重に検討する必要がある。
各都道府県教育委員会の個別の雇用率データが厚生労働省によって公表されるようになったのは2006年分からであり、それ以前の状況は地方議会議事録等を探索することで垣間見えるのみである。たとえば、1996年5月8日の東京都議会各会計決算特別委員会で東京都の学校関係の職員に占める身体障害者の雇用率として、1991年が3.14%、1992年3.21%、1993年3.30%、1994年1.08%、1995年1.13%という数値が示された。1994年の激変について都人事部長は「平成6[1994]年に同法[障害者雇用促進法]の運用方針が変更になりまして、それまで免許職種のために特例的に対象から除外されてきました教員のうち中学校及び高等学校の教員が対象となったことから、法定雇用率を下回る結果となったわけでございます」(東京都議会 1996)と説明した★6。
また、1997年10月1日の京都府議会では、京都府教育委員会の1996年の雇用率積算の対象となる職員数は7,192人、雇用されている重度障害者17人、重度以外の障害者32人、雇用率0.92%(全国平均0.98%)という低い数値が示されている。これに対して「この原因は、国の施策にあったことは否めません。すなわち、公立中学・高校については、障害者雇用率達成のための障害者採用計画とその実施状況に関する通知書の作成義務が特例的に免除され、このことによって公立中学・高校への障害者雇用を促進するための有効な対策がほとんど講じられてこなかったことであります。しかも、暫定的な措置であったはずのこの特例免除が法制定後34年間も継続され、やっと3年前の94年に中止されたところであります」(京都府議会 1997)と議員が指摘している。
新潟県議会(2000年9月18日)では、教育長が「本県における障害者雇用の状況につきましては、いわゆる障害者雇用促進法で適用除外とされている小学校教員も含めまして、平成11[1999]年度は0.79%となっており、前年度に比して、わずかではありますが、0.04ポイント増加しております」(新潟県議会 2000)と述べている。
2.2 厚生労働省発表の「障害者雇用状況の集計結果」
障害教員の雇用実態の把握と、その問題化、雇用促進策が動き出すきっかけとして特筆すべきなのは、総務庁行政監察局による1994年頃からの調査の動きと、それに基づき発せられた1996年の勧告である(次節で詳述)。
この行政監察局の勧告を受けて、1998年以降、労働省(2001年以降は厚生労働省)は毎年6月1日現在の全国の教育委員会全体の障害者雇用統計資料「障害者雇用状況の集計結果」★7を公表するようになった。以下、2021年までの変遷を概観する。
<表1 都道府県等教育委員会の障害者雇用集計(全国)>
(注)厚生労働省、行政監察局等の発表資料、国会議事録などから作成。
(1)公表項目
1998年に初めて都道府県等の教育委員会の障害者雇用のデータが公表されたが、その項目は、①職員数(除外職員除く)、A.重度障害者(常用)、B.重度障害者(常用)以外の障害者、C.計 A×2+B、②実雇用率 C÷①×100、という5項目であった。
2005年になると、区分・項目が増える。区分は前年まで「教育委員会」の1つだけであったが、計、都道府県教育委員会、市町村教育委員会の3区分の数値が分けて公表された。また、項目も、①機関数、②法定雇用障害者数の算定の基礎となる職員数、A.重度障害者(1週間の所定労働時間が30時間以上)、B.A以外の障害者、C.計 A×2+B、④実雇用率 C÷②×100、⑤法定雇用率達成機関の数、⑥法定雇用率達成機関の割合、となり法定雇用率達成機関に注目していることがわかる。
2006年になると、公表データの区分は、「都道府県教育委員会の状況」として、合計と47都道府県別となる。項目は、①法定雇用障害者数の算定の基礎となる職員数、②障害者の数、③実雇用率、④不足数、備考で、2005年まで公表されてきた重度障害者とそれ以外の障害者数は公表されなくなった。いっぽうで、法定雇用率を達成するために不足している障害者数が示されるようになった。また、註として、職員数の計算における旧除外職員(本稿第3節第3項参照)の扱いや、障害者数の算定のためのダブルカウントの重度障害者、ハーフカウントの短時間勤務職員等の扱いが付記され、この部分は法改正により算入される障害者が拡充されるたびに表記が変化していった。
(2)雇用率の推移
厚労省のデータが公表されるようになった1998年の法定雇用率2.0%に対して、実雇用率は1.15%であった。都道府県別データが公表された2006年には1.41%となり、以降、徐々に実雇用率は上昇し、2012年には1.88%、法定雇用率が2.2%に引き上げられた2013年には2.02%となった。
さらに、2017年には実雇用率が2.23%に達し、初めて教育委員会の障害者雇用率が法定雇用率を超えたと思われた。ところが、そこで障害者数の「水増し」が発覚し、再点検の結果、実際には1.82%であったと修正された。
法定雇用率は2018年には2.4%に、2021年には2.5%に引き上げられたが、実雇用率は2021年が2.21%であり、これまで一度も法定雇用率を達成できない状態が続いている。
2.3 公立学校における障害教職員雇用の実態
2018年の「水増し」事件発覚を契機に事態は動き出した。
(1)文部科学省による「教育委員会における障害者雇用に関する実態調査」
文部科学省は、2019年4月に公表した「教育委員会における障害者雇用推進プラン」に基づき、「教育委員会における障害者雇用に関する実態調査」を行い、2020年7月にその結果を公表した(文部科学省 2020)。
調査内容は、2019年の職種別・学校種等別の障害者雇用状況や、障害のある教職員に対する合理的配慮の例等である。
都道府県教育委員会における障害者雇用の状況は、法定雇用率2.4%に対し、全体の実雇用率は1.87%と不十分なものとなっている。職種別にみると、全体の約9割を占める教育職員の実雇用率が1.27%であり、約1割を占める事務職員が7.39%となっている。
また、課題の大きい教育職員の学校種等別の雇用状況をみると、小学校が雇用率0.69%(構成比43.0%)、中学校が1.00%(23.8%)、高等学校が1.33%(22.0%)、特別支援学校が4.23%(10.4%)となっており、旧除外職員である小学校が著しく低く、中学校・高校も低迷しており、特別支援学校教員と事務職員が雇用率を引き上げる要素となっていることがわかる。
(2)各都道府県教育委員会の障害者職員の任免状況通報内容の公表
厚生労働省が障害者雇用状況の集計をまとめるためには、各任命権者から、一定の様式によって詳細な状況の通報を受ける必要がある。その通報書の内容は2018年までは一般に公表されていなかったが、中村が行政文書開示請求によって2017年6月1日現在の都道府県教育委員会の障害者任免状況通報書を厚生労働書から入手したことで、初めてその内容が知られるようになった(中村2020:59)。
2018年の「水増し」発覚を受けて、2019年、障害者雇用促進法が改正され、毎年1回行われる障害者の任免状況の通報について「省令で定めるところにより、前項の規定により厚生労働大臣に通報した内容を公表しなければならない」(法第40条第2項)と、公表の義務が明記された。そして、同法施行規則で「通報した全ての事項に係る内容を公表すること」とされ、全文公開が原則となり「インターネットの利用その他適切な方法により公表しなければならない」こととなった。
HP上の公表状況をみると、34都道府県が全文公開、9県は一部のみ、4県は公表文書が確認できなかった(2022年7月時点)★8。表2は全都道府県の任免状況通報書を一覧にまとめたものであり、都道府県により公表内容に差があることが確認できる。公表項目を見ると、旧除外職員(現在の除外率対象職員)の数や、身体・知的・精神の障害別、ダブルカウントされる重度障害者やハーフカウントされる短時間勤務職員の各分類ごとの数などの詳細がわかり、計算式も明示されている。さらに身体障害者に関しては視覚、聴覚、内部など雇用促進法別表に掲げる種類別の身体障害者数も明示されている。但し、教育職員(教員)と他の事務職員等との職種別や、学校種別の数値は公表されていない。
<表2 都道府県教育委員会による「障害者任免状況通報書」のインターネットでの公開内容>
(注)1.備考欄に「2020年」と記載がある道県を除き、令和3年6月1日現在のもの。各都道府県教育委員会等のHPにより、2022年7月16日に確認。
2.公開が確認できなかった項目は空欄としている。なお「*」は各機関が理由を付して非公開としている項目を示す。
3.各教育委員会の「障害者活躍計画書」に掲載されているものは、法令に基づく公開とは異なるため記載していない。
4.各地方の労働局が公表しているものについても記載していない。
5.茨城県、兵庫県、奈良県及び鹿児島県については、調査時点で教育委員会の任免状況の公開が確認できなかった。
6.「合計」及び「平均」欄については、2021年の通報書の内容を全て公開していることが確認できた30都道府県(北海道、秋田県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県、滋賀県、大阪府、和歌山県、鳥取県、島根県、岡山県、山口県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、大分県及び宮崎県)についてのみ集計している。
7.簡便で確認しやすい表とするため、「任免状況通報書」様式における表記を適宜、省略などしている部分がある。
2.4 私立、国立学校における障害教員雇用の実態
障害教員には、教育委員会が雇用する公立学校の教員のほかに、私立学校や国立(大学附属)学校の障害教員もおり、その実態も明らかにされる必要がある。
(1)私立学校(学校法人)
私立学校については、(独)高齢・障害者雇用支援機構(現、[独]高齢・障害・求職者雇用支援機構)が、2005年3月に『学校教育分野における障害者雇用に関するアンケート調査報告』を公表し、全国の私立学校(学校法人)の実態を明らかにした。この報告は「学校教育分野における障害者雇用の実態及び障害者雇用を進める上での課題・問題点等を把握することを目的として」、全私学連合をはじめとする各学校法人を対象に2004年度に実施したアンケート調査の結果を取りまとめたものである(高齢・障害者雇用支援機構 2005)。
障害者雇用の状況として、勤務場所別・職種別障害者雇用率、障害者種類別雇用状況、職種別年齢構成、雇用形態、在職年数、給与等が報告されている。また、障害者の募集・採用活動に関しては、募集経路、募集・採用した障害者の職種及び雇用形態、障害者を募集も採用もしていない理由等が答えられている。
回答のあった470法人(回収率72.3%)の常用雇用労働者の総数は238,038人、雇用されている障害者は1,614人(重度障害者650人)、実雇用率1.44%であった。
(2)国立大学・附属学校(国立大学法人)
国立大学とその附属学校の障害者雇用については、都道府県教育委員会等と同じ厚生労働省の集計のなかの「独立行政法人等における雇用状況」で、その概略を2008年まで遡及して把握することができる。
例えば、2021年は国立大学法人等の法定雇用障害者数の算定の基礎となる職員数149,847.5人、障害者の数3,998.5人、法定雇用率2.6%に対する実雇用率2.67%、法定雇用率達成機関の数70/89、達成割合78.7%という数値が公表されていて、各国立大学法人ごとの数値も出ている。
3. 除外職員・除外率制度とその運用の経過
日本の障害者雇用政策は、障害者雇用促進法によって進められてきた(手塚2000)。障害教員の雇用に関しても、障害者雇用促進法に基づく政策が影響していることが推測される。そこで、障害教員が法制度そのものと、その運用において、どのように扱われてきたかという点に着目して、その政策の変遷を概覧する。
3.1 小学校教員等を「除外職員」とした身体障害者雇用促進法
1960年に身体障害者雇用促進法が制定された当初から、教員という職種は「一律に身体障害者を任用すべきものとすることは困難である」(堀1961:124)とされ、同法施行令(政令第292号)の「除外職員」(公務員)、および同法施行規則(労働省令第27号)の「除外労働者」(民間)に挙げられた。具体的には、政令・省令の別表で「大学の教育職員」「小学校、聾学校、養護学校及び幼稚園の教育職員」が、任命権者(雇用主)の雇用義務を免除する「除外職員・除外労働者」(以下、除外職員等)として列記された。但し、すべての教員が除外職員等とされたわけではなく、この別表に挙げられなかった中学校、高等学校、盲学校の教員は除外職員等には該当せず、任命権者(雇用主)の障害者雇用義務は、法定されたはずであった。
ここで言う「雇用義務」は、「国及び地方公共団体等は、その他の一般雇用主に率先して身体障害者を雇用するようにすべきであり、また早期にこれを行うべきであるとの見地から、各地方公共団体等の任命権者は、当該機関に勤務する身体障害者である職員の数が、当該機関の職員の総数に所定の身体障害者の雇用率を乗じて得た数以上になるよう計画を作成する義務」(東京都労働局1961)であり、公立学校教員の任命権者である都道府県教育委員会にも、その雇用計画作成義務はあるはずであった。
しかし、後述するように、中学校・高校の教員も実質除外職員とする特例的取り扱いがなされており、法令や通知に明記されている内容と、実際の運用とに大きな乖離がある。新法が制定され、その解釈や運用について、労働省から教育委員会を含む各任命権者や民間の雇用主に対して、なんらかの通知や説明がおこなわれたであろうことは想像できるが、それがどのようなものであったのか、とくに1994年6月にやめるまで続けられた中学校・高校教員に関する「実質的に採用計画の作成を免除する特例的取扱い」の内容とその経過は不明なままである。
1976年に、身体障害者雇用促進法が改正され、民間企業における除外労働者制度は除外率設定業種へと変更され、私立学校に関しては、高等教育機関50%、特殊教育諸学校(盲学校を除く)65%、小学校75%、幼稚園80%の除外率が設定された。公務員における除外職員制度は維持された。
3.2 転機となった行政監察局の1996年勧告
教育委員会の障害者雇用義務は、法律上除外職員等として明記されている小学校等の教員だけでなく、法律上除外職員等とはされていない中学校・高校の教員をも含め実質的に免除されてきた。この状況に変化が生じるのは1990年代に入ってからの総務庁行政監察局の動きによってである。
行政監察局発行の『行政監察月報』によると、1990年に示された行政監察の結果では、企業を指導する立場としての都道府県については言及されているが、障害者を雇用する主体としての都道府県に関する記述は見当たらない(総務庁行政監察局1990)。この時点では、障害者の雇用促進に関して、民間企業が監察対象の中心と認識されていたことがわかる。
『行政監察月報』の1993年4月号に1993年度から1995年度の「中期行政監察予定テーマ」が掲載されているが、1995年度のテーマに「障害者雇用」は記載されていない(総務庁行政監察局1993:3-4)。
それが、翌年1994年4月号に掲載された「中期行政監察予定テーマ(1994年度から1996年度)」には、1995年度に「障害者の雇用等」が追加されており(総務庁行政監察局1994:4)、「障害者の雇用」に関する調査について、1993年から1994年の間に方針が変更されていることになる。
そして、1995年監察では計画の段階で、主要調査対象に「都道府県教育委員会」を掲げ、都道府県の非現業的機関の実雇用率が1.62%と低水準であることを明記している(総務庁行政監察局1995:14-5)。
以上のことから、行政監察局は、障害者雇用の問題について、1990年ころまでは、民間企業の問題として捉えていたが、1994年3月ころまでに、雇用主としての国や都道府県についても目を向け、特に都道府県の教育委員会等の雇用率の低さについて認識するに至ったという経過が確認できる。
行政監察局は1995年に障害者の雇用に関する監察を行うこととした背景として、「平成5[1993]年12月の障害者基本法の改正により、障害者に関する基本的理念として『完全参加と平等(すべての障害者は社会を構成する一員として社会,経済,文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられるものとする)』が追加されたが,これを実現する上で障害者の職業的自立を図る雇用・就業の場を確保することが特に重要な課題となっている」(総務庁行政監察局1995:14-5)と述べている。
1996年5月、行政監察局が労働省及び文部省に対して、障害者の雇用・就業に関する行政監察結果に基づき、次のような勧告を実施した。「今回、国及び地方公共団体における障害者の雇用状況について調査した結果、次のような状況がみられた。/ ①平成7[1995]年6月1日現在の国及び地方公共団体における障害者の実雇用率は、現業的機関において2.20パーセント、非現業的機関において2.00パーセントと法定雇用率を達成しているが、……都道府県の非現業的機関が法定雇用率を達成していない。この原因は、都道府県の非現業的機関のうち、都道府県教育委員会以外はすべて法定雇用率を達成しているのに対し、都道府県教育委員会の実雇用率が全国平均で0.98パーセントと法定雇用率を大きく下回っていることによるものである。/ ②労働省は、昭和35[1960]年からの国及び地方公共団体に対する身体障害者の雇用の義務付け以降、都道府県教育委員会及び市町村教育委員会(以下「県教委等」という。)の教職員のうち、実雇用率の算定に当たっての除外職員(小学校の教員等)とされていない中学校及び高等学校の教員の数を採用計画及びその実施状況に係る通報書等に含めないものとし、実質的に採用計画の作成を免除する特例的取扱いを行ってきたため、県教委等では、障害者の積極的な採用について特段の措置を講じてきていなかった。/ その後、労働省は、この特例的取扱いを平成6[1994]年6月30日に取りやめ、その際、障害者の雇用の促進に関する法律施行令第3条第2項……に基づき原則1年間で達成することとされている採用計画については、特別に5年以内で達成することとしたことから、県教委等では、平成7[1995]年1月1日を始期とし、5年以内に法定雇用率を達成するとする採用計画を作成し労働省に通報している」(総務庁行政監察局1996)。
労働省は、1994年6月30日に、「障対発第28号(身体障害者である職員の任免に関する状況の通報等について)」という障害者雇用対策課長名の通達を各都道府県教育委員会人事担当課長宛てに発出した★9。そのなかで、「任免に関する状況の通報に当たっては……職員の総数、除外職員を除く職員の数及びそのうちの身体障害者の数等のいずれにも、中学校及び高等学校の教育職員に係る雇用状況を含めることとする」(労働省1994)と念を押して、7月15日(通達発出から15日後)までに報告するよう求めている。ここからも、これ以前には、教育委員会の障害者雇用の国への通報対象に中学校・高校の教員は含まれていなかったことが推測できる。
労働省は、遅くとも1994年の4月(監察計画に入れる前に、当該分野の事前調査、調整などがなされると思われるので、もっと早く知っていた可能性もある)に、翌1995年に「障害者の雇用」をテーマに行政監察が入ることを知った。そしておそらく、それまでは注目されていなかった都道府県やその教育委員会がターゲットにされていることも、同時に知ったのだと思われる。
この突然の労働省からの通達は、各都道府県教育委員会を戸惑わせたようで、「障害者雇用促進法に基づく法定雇用率(2%)を達成しなくても採用計画の作成を猶予されていた都道府県教委に対して、労働省が1999年までに達成するよう、年次計画を今年中に提出することを求める通達を出していたことが分かった。ほとんどの教委が2%にほど遠く、達成不可能を承知で計画を出したところもある。『現状と目標に差があり過ぎる』『短期間で教員の大量採用は困難』など困惑が広がっている」(朝日新聞1994)と報じられている。この記事のなかで、労働省障害者雇用対策課は「中・高校の教員を除外していたのは、障害者を受け入れる環境整備の準備期間が必要だったため」「動きの激しい児童と接する小学校教員は以前から原則として除外されている」と、これまで中学・高校等の教員を除外してきた理由を述べている。
3.3 「除外職員」から「除外率対象職員」へ
「障害者雇用率制度に基づく雇用義務を軽減する除外職員制度及び除外率制度については、ノーマライゼーションの観点などから問題があり、政府全体で進めている資格欠格条項の見直しの流れからみても不合理であることから、平成14[2002]年の障害者雇用促進法の改正により、段階的に縮小することとされた。ただし、直ちに廃止することは困難であることから、2年程度の準備期間をおいて段階的に縮小を進めることが適当」(労働政策審議会2003)とされた。
そのうえで、国等の機関における除外職員の範囲を、「国民の生命の保護とともに、公共の安全と秩序の維持を職務としており、その遂行のためには職員個人による強制力の行使等が必要であるような職員」に限り、「改正により除外職員ではなくなる職種の職員が多い機関については、当該職員が職員総数に占める割合を基に、除外率を設定すること」(労働政策審議会2003)となった。
そこで、これまで除外職員とされていた公立小学校等の教員は、新たに設けられた「除外率対象職員」となり、その除外率は各教育委員会ごとに2004年段階での障害者雇用実績から設定されることになった。各教育委員会の除外率は公表されてこなかったが、2019年の障害者雇用促進法改正により、その任免状況の公表が義務化され、各々の除外率も20から35%で設定されていることが明らかとなった(表2参照)。
4. 考察
障害教員の雇用は、これまで低迷を続けてきており、一度も法定雇用率を全体として満たしたことはない。そこには様々な要因が絡んでいることが考えられる★10。今後、多角的な分析がなされる必要があるが、ここでは、その1つの要因として、障害者雇用促進法とその運用がどのように影響したかを考察する。
4.1 除外職員制度
まず、障害者雇用促進法そのものが、当初から、小学校、聾学校、養護学校、幼稚園、大学の教員を「除外職員」として、雇用義務の対象から除外してきたことが、障害教員の雇用が低迷してきた基本的な要因であると考えられる。日本の障害者雇用政策は、1960年に「身体障害者雇用促進法が制定されて以降、雇用義務制度を中心に障害者の雇用促進(量的改善)をはかってきた」(永野ほか2018:ⅴ)のであり、雇用者側に雇用義務が課せられなければ、障害者の雇用を推進する力が働かないことになる。
4.2 中学校・高校の実質除外扱い
さらに、障害教員の雇用が進まなかった政策的要因として考えられるのが、法律上では除外職員となっていない中学校・高校の教員が実質的に除外職員と同様の扱いとなっていたことである。すなわち、中学校・高校の教員の数は、障害者の採用計画及びその実施状況に係る通報書等に含めないものとされ、実質的に採用計画の作成を免除される特例的取扱いを労働省から受けることになり、そのため、「県教委等では、障害者の積極的な採用について特段の措置を講じて」こなかったのである(総務庁行政監察局1996)。
小学校等の教員は法律上の除外職員として政令で明記されているうえに、中学校・高校の教員も、労働省の運用で、任免状況の通報や採用計画策定を免除されて、教育委員会としては、盲学校の教員(そのなかには一定数の視覚障害者が理療科教員として勤務している)を障害者雇用の数値として労働省に報告すればよい状態が、1990年代半ばまで続いたと考えられる。労働省の障害者雇用統計においても、教育委員会を抜き出して数値を公表することはなく、都道府県の非現業部門として知事部局と合算したなかに含まれており、実態も知られず、問題になることもほとんどなかった。
これらのことは、1996年の行政監察局の勧告まで、一般には知られていなかったし、その後も大きな問題とはなってこなかった。なぜ労働省が、このような脱法的とも言える運用をおこなってきたのかは不明なままである。また、この運用をやめることになるきっかけが行政監察局の動きにあったことは間違いないだろうが、なぜ行政監察局がこの1994年ころに動き出したのかについては、障害者基本法制定がその理由として言われているが、教育委員会に焦点が当てられた理由としては抽象的であり、他の要因も考えられる★11。
4.3 雇用義務の減免から強化へ
行政監察局による勧告前後の動きを契機に、労働省は中学校・高校教員を除外職員扱いする特例措置を1994年に取りやめた。この政策転換により、労働省は教育委員会に対しても積極的な障害者雇用促進を求めていくことになる。
2002年には障害者雇用促進法が改正され、除外職員制度が廃止され、除外率制度に置き換えられた。旧除外職種である小学校等の教員には20から35%の除外率が現在も設定されている。
2006年からは都道府県教育委員会別の実雇用率が公表されるようになった。このあと、教育委員会の実雇用率は法定雇用率に近づいていくことになるが、2018年の「水増し」発覚で、公表されてきた数値ほどには改善が進んでいない現状が露呈した。
障害教員の雇用義務は、1990年代に、それまでの免除・軽減から転換し、実働化・強化されていった。教育委員会等の障害者雇用率の数値も上昇・改善していき、法定雇用率との乖離も縮小してきた。ここからも、1990年代まで障害教員の雇用が低迷してきた要因として、除外職員等の扱いで、障害教員の雇用義務が実質免除され、雇用者である教育委員会等が障害者雇用を積極的には進めてこなかったことが考えられる。これは、労働省が「実質的に採用計画の作成を免除する特例的取扱いを行ってきたため、県教委等では、障害者の積極的な採用について特段の措置を講じてきていなかった」(総務庁行政監察局1996)という行政監察局の分析とも合致する。
2000年代以降の障害教員の雇用の推移を、どのように評価し、分析するかは、重要な課題であるが、本稿で示した資料のさらなる詳細な分析や、講じられてきた/こなかった諸施策の検討抜きには論じられない。
5. おわりに
5.1 結論
本稿は、日本における障害教員の雇用が進んでこなかった実態とその経過を、新たに収集した統計等の資料を用いて明らかにした。すなわち、1960年に身体障害者雇用促進法が制定されてから1996年に行政監察局の勧告を労働省、文部省等が受けるまでは、各教育委員会の障害者雇用の実態は、国会にすら資料が出されず不明であったこと。国会質疑のなかで、他の公共部門が法定雇用率を満たしている中で、都道府県等の非現業部門の雇用率が極端に低く法定雇用率を下回っており、その主な原因は教育委員会であると説明されていたことがわかった。また、行政監察局の勧告以降、都道府県教育委員会の障害者雇用統計が労働省、厚生労働省から公表されるようになっていったが、実雇用率は徐々に上昇していったものの、法定雇用率を達成することは一度もなかった。実態を把握するための統計も、ようやく2006年に各都道府県別雇用率が公表されるようになったが、その算定の根拠となる詳細データは発表されないできた。2017年に初めて教育委員会の障害者雇用率が法定の2.2%を超えたと発表されたが、実は障害者数などを「水増し」していたものであることが翌年発覚し、再点検の結果実際には大幅に下回っていたことが判明した。この「水増し」事件をきっかけに厚生労働省は障害者雇用促進法を改正し、障害者等の任免状況の公表を義務づけた。また、文部科学省も「教育委員会における障害者雇用推進プラン」を策定し、教育委員会の職種別、校種別の障害者雇用の実態を調査するなど、課題と問題点の把握に、ようやく動き出したこともわかった。
さらに、本稿では、障害教員の雇用が進んでこなかった要因についても考察し、その1つとして、労働省の障害者雇用政策があったことが示唆された。すなわち、障害者雇用促進法の「除外職員」に小学校等の教員が当てはめられてきたこと、「除外職員」でない中学校・高校の教員も労働省の制度運用で実質除外扱いになってきたことで、教育委員会の障害者雇用義務が30年余にわたって実質的に免除されてきたことがわかった。これらの制度・政策上の問題が、1990年代まで低迷してきた障害教員雇用に影響したと考えられる。
5.2 今後の課題
本稿で、低迷してきた障害教員の雇用実態とその経過の一端が明らかとなったが、その全容解明にはほど遠い。本研究で調査・収集した統計資料には、現状の問題点を検討する上で重要な内容が豊富に含まれているが、その内容の詳細な分析はできなかった。
また、教員の障害者雇用が進まない要因については、障害者雇用促進法における雇用義務の除外職員・除外率制度とその運用の影響に着目して考察したが、他の様々な要因、とくに2000年代以降、障害教員の雇用義務が実働化し、除外職員制度が廃止されたなかでの雇用動向や諸施策についても多角的な分析が必要であり、今後の研究課題としたい。
■註
★1 障害者雇用促進法の条文上は「障害者雇用率」と表されるが、「法定雇用率」という用語が一般的に通用しており、また、障害者の実雇用率(各事業主における、全労働者の中の障害者の割合)とも区別するために「法定雇用率」を用いることがある(永野ほか2018:94)。
★2 「教員の採用に当たりましては、免許の所持、能力の実証が必須要件でございます。障害者のうち教員免許所持者の数は不明でございますが、実際の教員採用選考に際しましては……配慮をしているところでございますが、実際には、申し出る者の数は極めて少ないのが現状でございます」(東京都議会1996)、「教育委員会における障害者雇用についてでありますが、平成16年6月現在の障害者雇用率は1.01%となっており、法定雇用率である2.0%を下回る状況となっております。この原因は、障害のある受検者が少なく、採用に結びついていないことによるものと考えております」(新潟県議会2004)等の教育委員会の地方議会での答弁が見られる。
★3 1960年の法制定当初は身体障害者(視覚、聴覚、肢体)が法対象の障害者の範囲に含まれていたが、1987年の改正で知的障害者も加わり、2005年には精神障害者が雇用率対象に算入されるようになった。
★4 教育委員会や学校法人等が障害者雇用率を改善するために教員でなく、事務職員等を雇用していくことをどう考えるかといった課題はある。
★5 1998年以降の都道府県教育委員会の障害者雇用の数値は、労働省/厚生労働省のHPに公表されており、そのURL等を筆者がまとめたものは、次の立命館大学生存学研究所HPで確認できる。
http://www.arsvi.com/d/w20210825.htm
★6 ここには除外職員が多いほど雇用率の数値が上がるという問題が端的に示されている。雇用率の高さだけを障害者雇用の指標としてとらえてしまうと、除外職員が多い(除外率が高い)事業所ほど、雇用障害者数が少なくても、障害者雇用が進んでいるかのように見えてしまう。本稿で課題とする障害者雇用の促進は、雇用される障害者数の量的拡大と労働環境の質的向上を意味する。雇用率の上昇や法定雇用率の達成は、1つの数値目標にはなるが、その内容を精査しなければ適確な評価はできない。
★7 各年の「障害者雇用状況の集計結果」は次の立命館大学生存学研究所HPで確認できる。
http://www.arsvi.com/d/w20210825.htm
★8 各都道府県の通報書は次の立命館大学生存学研究所HPで確認できる。
http://www.arsvi.com/d/w20210825-2.htm
★9 筆者が本通達について厚生労働省に照会したところ、「お尋ねの平成6年の通達については、保存年限が5年なので廃棄済みであり、提供することができない。情報公開請求されても、文書がないという回答になる」との返答だった。しかし、知人から紹介された国会議員を通じて請求したところ、すぐに複写が提供された。
★10 中村(2022)は、日本と韓国の障害教員雇用政策を比較しながら、「日本では教育委員会の障害者雇用率の低さが長年の課題となって」いて、「教員の障害者雇用が低迷している」と指摘し、その要因として障害教員の養成(障害学生の支援)、障害教員の採用、障害教員の職務支援等の多様な課題を提示している。そのうえで「障害教員が担任をはじめ、教育実践で実力を発揮し、やりがいをもって活躍できるように環境を整えることこそ、障害教員を増やすための最も有効な方策である」と結論づけ、「より有効な障害教員の雇用政策について検討」することを提起している。
★11 障害教員の働く権利保障を求める当事者運動が1990年代前半に活発化し、世論に訴え、東京都議会や文部省に1994年に署名を提出する動きもあった(栗川2021)。障害教員運動が障害者雇用政策等にどのような影響を与えていったかについては、今後検証していく必要がある。
■文献
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