遡航

論文(Peer Reviewed) 介護職員等によるたん吸引・経管栄養の法制化の経緯と論点の分析——「医療的ケア」をめぐる介護現場ニーズと医事法制の衝突・架橋の試み 鈴木 悠平、牧野 恵子
2022年3月 『遡航』001号 pp.24-47
キーワード:医療的ケア、喀痰吸引、経管栄養、重度訪問介護、医行為、医事法制、実質的違法性阻却
要旨
2012年4月1日に施行された「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」により、一定の研修を受けた介護職員等が、たんの吸引や経管栄養といった行為を業として行えるようになった。本稿は「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方に関する検討会」(2011-2012)議事録から、検討会委員の意見が法改正に及ぼした影響を分析したものである。在宅ALS患者や重症心身障害児者などたん吸引等を必要とする立場の委員の働きかけにより、施設以外の在宅や特別支援学校、重度訪問介護の移動中もたんの吸引等の「実施場所の範囲」に、保育士や教員など、介護福祉士やヘルパー以外の幅広い職員も「介護職員等」に含みうることとなった。職員研修については、重度訪問介護等の個別性の高いケアの実情を踏まえ、「特定の者」を対象にした類型が追加された。法制化にあたってはたんの吸引等の医事法制上の位置付けも議論になった。医行為について統一的な定義は存在しないが、たんの吸引や経管栄養は、医行為であるとの社会通念上の解釈のもと、それまで「実質的違法性阻却」での運用がなされてきた。検討会では医行為から外すべきとの医師会の提案があったが、生活援助行為でもありつつ医療職の関与も一定必要になる「医療的ケア」の特徴を鑑み、たんの吸引・経管栄養の一部を医行為に含め、法令・省令で介護職員等に解禁するという結論に至った。

1. 研究目的と背景

 2012年4月1日に施行された「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」により、一定の研修を受けた介護職員等が、たんの吸引や経管栄養といった行為を業として行えるようになった。本稿の目的は、同法施行に先立って2010年7月5日から2011年7月22日に開催された「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方に関する検討会」の議事録および関連資料を分析することで、介護サービスの利用者やその家族、介護・医療・看護従事者といった、同検討会出席委員の意見や利害関係が、法改正にどのような影響を及ぼしたのかを分析することである。

1-1. 在宅・施設等での「医療的ケア」ニーズの増加

 検討会の分析に入る前に、たんの吸引をはじめとする、いわゆる「医療的ケア」の性質や位置づけと、それが在宅・施設等の日常生活で行われるようになった経緯について説明する。医療的ケアとは、たんの吸引や経管栄養の注入、導尿、人工呼吸器の管理といった、日常生活で必要となる医療的な生活援助行為である。
「ある行為が医行為であるか否かについては、個々の行為の態様に応じ個別具体的に判断する必要がある」(厚生労働省[2005(1):1])とされており、具体的かつ網羅的な定義は存在しない。2005年7月26日に厚生労働省より発出された、医政発第0726005号「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について( 医政局長通知)」において、爪切り等や擦り傷の手当の行為は「医療行為」から外されたが(厚生労働省[2005(1)])、たんの吸引や経管栄養といった「医療的ケア」は引き続きグレーゾーンにとどめ置かれていた。そのため、介護事業所の多くは業務としてのこれらの行為を行うことに消極的になり、退院後の在宅生活においては、医師・看護師が訪問できない日常生活の多くの時間で、家族がこれらの医療的ケアを実施するしかなく、家族に大きな介護負担がかかってしまう。そこで現場では、自己責任の延長で、本人や家族からの依頼を受けて介護福祉士やヘルパー等の介護職が医療的ケアを実施せざるを得ない(あるいは市町村から違法扱いされることを恐れるゆえに断らざるを得ない)という状況に陥っていた(日本ALS協会[2005])。
 こうした現場実態と、医療的ケアの法的位置づけのギャップを埋めるため、厚生労働省は「実質的違法性阻却」という形で各種通知を出し、利用者と介護者との間で個人的に同意書を取り交わすことで、現場での介護職による医療的ケアの実施を容認する対応を取ってきたが、これは利用者・介護者双方にとって法的・心理的に不安な状態であったため、合法的に医療的ケアを実施可能にする法改正を求める声が大きくなっていった(詳しい経緯は第3章で述べる)。

1-2. 法改正後の介護現場でのたん吸引等の法的位置づけ

 2012年4月1日に施行された「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」により、現在は一定の研修を受けた介護職員等がたんの吸引等を業として実施することができるようになっているが、これらは法的には「医行為」として扱われている。
 また、具体的に介護職員等が実施可能な医療的ケアの範囲は法律ではなく省令レベルで定めることとされ、2011年10月3日の「社会福祉士及び介護福祉士法施行規則の一部を改正する省令(平成23年厚生労働省令第126号)」において、喀痰吸引(口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部)と経管栄養(胃ろう又は腸ろう、経鼻経管栄養)と限定された。また、吸引については、2011年11月11日の「社会福祉士及び介護福祉士法の一部を改正する法律の施行について(喀痰吸引等関係)(平成23年社援発1111第1号)」にて、咽頭の手前までを限度とすることが通知された。
 1-1.で述べた通り、「医療的ケア」の内容は喀痰吸引・経管栄養以外にも多種多様であるが、現在の法体系においては、介護職員が業として行うことができる医療的ケアは、あくまで上記の省令・施行通知で定められた喀痰吸引・経管栄養の範囲内であり、それ以外は医師・看護師等の医療職のみが行える独占業務である。

1-3. 本研究の意義

 医療技術の発展と社会の高齢化によって、今後も引き続き、医療機関外の在宅・地域生活で日常的に医療的ケアを必要とする人たちは増加すると考えられる。前述の通り、現時点で介護職員等が合法的に行える医療的ケアは喀痰吸引・経管栄養に留まっているが、医療技術の発展や現場からの要請を受けて、新たな省令等で実施可能となる医療的ケアの範囲が拡大する可能性は考えられる。その際、過去の議論を踏まえて制度の検討・設計が進められるべきであるが、人事異動や世代交代、時間や人員等のリソースの制約といった理由で、過去の議事録等の読み直しや重要事項の申し送りが不十分なまま制度策定が進んでしまうリスクは常にある。過去に成立した制度について、策定過程での論点や関係者の立場、議論や合意形成のプロセスを整理・分析しておくことは、未来の制度設計のためにも有用であろう。
 本稿において「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方に関する検討会」の内容と経緯を分析し、2011年の法改正によって喀痰吸引・経管栄養が法制化されるに至ったプロセスをたどることで、医療・看護・介護・教育といった複数の領域が関与する「医療的ケア」を、利用者のニーズに応えられる形で実施・提供できるようにするためには、法律上・実務上どのような課題が生じ、どのような論点・選択肢があり、どのような判断がなされたのかを明らかにすることを試みる。今後、現在法制化されていない別種の医療的ケアの扱いについて、同様の検討がなされる際に、関係者が参照し、議論の立脚点とすることができる史料を残すことが本研究の社会的意義である。

2. 分析の方法

 2010年7月5日から2011年7月22日に開催された「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方に関する検討会」の各回議事録および提出・使用された資料を対象とし、検討会出席委員の主張・発言を分析する。たんの吸引等の法的な位置づけ、実施可能とする行為の範囲やケア提供者の範囲、研修の実施や認定の基準、医療・介護の連携のあり方といった主要な論点を整理しながら、検討会において各委員の発言・主張が結論にどう影響したかを考察する。
 著者2名でそれぞれ同一の資料にあたり、事実確認および関係者の主張・発言の意図や議論への影響の解釈について、協議を行い、最終的な分析結果をまとめた。

3. 検討会の経緯・内容

3-1. 医療的ケアに関する、検討会開催以前の議論と対応

3-1-1. 介護保険制度施行を控えての行政監察

 介護現場における医療的ケアの扱いに関する問題は、介護保険制度施行を控えた1999年の時点で早くも指摘されている。旧総務庁の行政監察局が旧厚生省、地方自治体、特別養護老人ホーム事業者等を対象に行政監察を行い、1999年9月24日「要援護高齢者対策に関する行政監察結果-保健・福祉対策を中心として-」にて、厚生省に対してホームヘルパー業務の見直しを勧告した。
 ホームヘルパー業務では医療行為を実施することが不可能であるが、老人訪問看護事業における看護婦等の訪問頻度が週2回以下に留まる事業者が全体の約88%であり、傷口のガーゼ交換、血圧・体温測定等の医療行為の一部をホームヘルパーが行わざるを得ない状況もあるため、これらの行為を実施できるようにしてほしい旨を要望する事業者もいたことが行政監察の結果として報告されている。医療行為は、医師の医学的判断、技術によらなければ人体に危害を及ぼすおそれのある行為であるが、その具体的な範囲は社会通念に照らして個別に判断することと述べ、「身体介護に伴って必要となる行為をできる限り幅広くホームヘルパーが取り扱えるよう、その業務を見直し、具体的に示すこと」を厚生省に勧告している(総務庁[1999])。

3-1-2. 実質的違法性阻却による対応

 介護保険制度施行後も、ヘルパーが医療的ケアを行えないことについての現場からの問題提起は続き、2005年から2010年にかけて、ALS患者、盲・聾・養護学校の生徒、ALS以外の在宅療養患者・障害者、特別養護老人ホームの高齢者、それぞれに対するたんの吸引等の「実質的違法性阻却」通知が出された。以下にその経緯を概観する。
 ALSに関しては、2002年11月12日に日本ALS協会が当時の坂口厚生労働大臣に17万8千人分の署名を提出し、「ALS等の吸引を必要とする患者に医師の指導を受けたヘルパー等介護者が日常生活の場で、吸引を行うことを認めてください」と要請した。大臣は「関係者による検討会を設置し、桜の花の咲くころまでに結論を出したい」と回答(日本ALS協会新潟支部[2002])、2003年2月3日に第1回「看護師等によるALS患者の在宅療養支援に関する分科会」(すでに開催されていた「新たな看護のあり方に関する検討会」の下に設置)が開催され、検討がスタートした。
 また、日本ALS協会は同年2月10日に「ALS患者に関する調査報告 吸引等に関するALS患者・家族の実態と意見」を公表した。2000年に実施した在宅療養実態調査の結果をもとに、在宅ALS患者の63%が日常的なたん吸引を必要としており、訪問看護でカバー出来る時間は2%弱に過ぎないこと、吸引のため患者から24時間離れられず家族は疲労困憊しており、37%の患者が自己責任の延長で吸引をしてもらえる知人や家政婦、全身性介護人、ヘルパー(介護事業所)等を探して依頼しているが、吸引が医療行為と言われて禁止されているため介護者の確保に大変な苦労をしていること、などを報告した(日本ALS協会[2005])。
 6月9日に分科会の報告書がまとめられ、たんの吸引について、危険性を考慮すれば医師または看護職員が行うことが原則であるとしながらも、家族の負担軽減が求められる在宅療養の現状を鑑みれば、家族以外の者による吸引も一定の条件下では当面の措置として行うこともやむを得ないとの結論が出された(厚生労働省[2003(1)])。
 分科会の報告を踏まえて、2003年7月17日付け医政発第0717001号厚生労働省医政局長通知「ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の在宅療養の支援について」が出された。これにより、1)療養環境の管理、2)在宅患者の適切な医学的管理、3)家族以外の者に対する教育、4)患者との関係(たんの吸引について文書により同意を交わすこと)、5)医師及び看護職員との連携による適正なたんの吸引の実施、を条件に、家族以外の者によるたんの吸引の違法性が阻却されることとなった。実施可能なたんの吸引の範囲は、「口鼻腔内吸引及び気管カニューレ内部までの気管内吸引」(厚生労働省[2003(2)])が限度とされた。
 盲・聾・養護学校に関しては、文部科学省が関係道府県衛生主管部局及び教育委員会の協力を得て、1998年から2002年までの「特殊教育における福祉・医療等との連携に関する実践研究」および2003年から2004年の「養護学校における医療的ケアに関するモデル事業」を行い、盲・聾・養護学校教員による医療的ケア実施のあり方について検討を行った。
 これらのモデル事業等を踏まえて、厚労省は2004年から2005年にかけて、「在宅及び養護学校における日常的な医療の医学的・法律学的整理に関する研究会」を開催し、報告書を取りまとめた。報告書では、盲・聾・養護学校へ看護師が常駐し、教員等関係者の協力が図られたモデル事業等の安全面や負担軽減効果を認めつつも、児童生徒に必要な医行為のすべてを担当できるだけの看護師の配置を短期的に行うことは困難であり、一定の条件下で教員がたんの吸引等を実施することはやむを得ないものと結論が出された(厚生労働省[2005(2)])。
 この報告を踏まえて、2004年10月20日付け医政発第1020008号厚生労働省医政局長通知「盲・聾・養護学校におけるたんの吸引等の取扱いについて(協力依頼)」が出された。非医療関係者の教員が医行為を実施する際の違法性が阻却される条件として、1)保護者及び主治医の同意、2)医療関係者による的確な医学管理、3)医行為の水準の確保、4)学校における体制整備、5)地域における体制整備が挙げられた。実施可能な医療的ケアの範囲としては、たんの吸引(咽頭より手前)、経管栄養(胃ろう・腸ろうを含む)、導尿に限られ、その標準的な手順も通知で示された(厚生労働省[2004])。
 ALS以外の在宅療養患者・障害者に関しても、盲・聾・養護学校と同じく「在宅及び養護学校における日常的な医療の医学的・法律学的整理に関する研究会」にて検討が行われ、ALS患者に対して認められている措置が同様の状態にある者に認められないことは法の下の平等に反するものであり、ALS患者と同様の条件の下で、家族以外の者がたんの吸引を実施することはやむを得ない措置として容認されるとの報告が出された。その後、2005年3月24日付け医政発第0324006号厚生労働省医政局長通知「在宅におけるALS以外の療養患者・障害者に対するたんの吸引の取扱いについて」が出され、ALS患者と同様の条件・範囲でたんの吸引が認められることとなった(厚生労働省[2005(3)])。
 特別養護老人ホームを利用する高齢者に関しても、2009年2月から2010年3月にかけて「特別養護老人ホームにおける看護職員と介護職員の連携によるケアの在り方に関する検討会」が開催され、介護職員による医療的ケア実施のあり方について検討が行われた。検討会開催期間中の2009年から全国各地の特別養護老人ホームで「特別養護老人ホームにおける看護職員と介護職員の連携によるケアの在り方に関するモデル事業」も行われ、その結果を踏まえて報告書が取りまとめられた。報告書では、盲・聾・養護学校での議論と同じく、たんの吸引が可能なだけの看護師を全国の特別養護老人ホームに短期的に配置することは困難であると述べ、一定の条件下で介護職員がたんの吸引等を実施することはやむを得ないものと結論が出された(厚生労働省[2010(1)])。
 この報告を踏まえ、2010年4月1日付け医政発0401第17号厚生労働省医政局長通知「特別養護老人ホームにおけるたんの吸引等の取扱いについて」が出された。違法性阻却の条件として、1)入所者の同意、2)医療関係者による的確な医学管理、3)口腔内のたんの吸引等の水準の確保、4)施設における体制整備、5)地域における体制整備が挙げられた。介護職員が実施可能な医療的ケアの範囲としては、口腔内のたんの吸引と、胃ろうによる経管栄養に限られ、その標準的な手順も通知で示された(厚生労働省[2010(2)])。
 なお、同検討会の第2回が行われた2009年6月10日には、日本医師会が審議内容への反対声明を出し、口腔吸引や経管栄養が「医行為」であるのなら、介護職員等が実施することは認められないとの考えを発表した。対案として、2005年7月26日に厚生労働省より発出された「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について( 医政局長通知)」 を引き、ここで医行為ではないと解釈された「口腔内清掃」や「爪切り」と同様に、たんの吸引等が医行為ではないとはっきり示されれば問題ではないとも述べている(日本医師会[2009])。医師会のこれらの主張は、本稿の主題である「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度のあり方に関する検討会」でも再三提起されることとなる。
 図表1は、たんの吸引等の実質的違法性阻却通知がなされた対象や時期、その条件・範囲等をまとめたものである。

図表1. たんの吸引等の実質的違法性阻却対応
対象者 実質的違法性阻却通知 違法性阻却の条件 違法性阻却が認められる医療的ケアの範囲
在宅療養ALS患者 2003年7月17日 1)療養環境の管理 ・たんの吸引(口鼻腔内吸引、気管カニューレ内部までの気管内吸引)
  「ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の在宅療養の支援について」 2)在宅患者の適切な医学的管理  
    3)家族以外の者に対する教育  
    4)患者との関係  
    5)医師及び看護職員との連携による適正なたんの吸引の実施  
盲・聾・養護学校の児童生徒 2004年10月20日 1)保護者及び主治医の同意 ・たんの吸引(​​咽頭より手前)
  「盲・聾・養護学校におけるたんの吸引等の取扱いについて(協力依頼)」 2)医療関係者による的確な医学管理 ・経管栄養(胃ろう・腸ろうを含む)
    3)医行為の水準の確保 ・導尿
    4)学校における体制整備  
    5)地域における体制整備  
ALS以外の在宅療養患者・障害者 2005年3月24日 1)療養環境の管理 ・たんの吸引(口鼻腔内吸引、気管カニューレ内部までの気管内吸引)
  「在宅におけるALS以外の療養患者・障害者に対するたんの吸引の取扱いについて」 2)在宅患者の適切な医学的管理  
    3)家族以外の者に対する教育  
    4)患者との関係  
    5)医師及び看護職員との連携による適正なたんの吸引の実施  
特別養護老人ホーム入所者 2010年4月10日 1)入所者の同意 ・たんの吸引(口腔内)
  「特別養護老人ホームにおけるたんの吸引等の取扱いについて」 2)医療関係者による的確な医学管理 ・経管栄養(胃ろうによる)
    3)口腔内のたんの吸引等の水準の確保  
    4)施設における体制整備  
    5)地域における体制整備  

3-1-3. 規制改革・総理指示等の政治的機運

 ここまで見てきたように、ヘルパーや教員等の非医療職によるたんの吸引等の医療的ケアは、本来非医療職がやってはいけない違法なものという社会通念上の取り扱いをされてきたが、介護・教育現場の実態を踏まえればやむを得ないとして、「実質的違法性阻却」というある種の例外対応で容認されてきた。2009年9月に民主党政権が成立してからは、チーム医療の推進、医療・介護従事者の役割分担の見直しといった議論が活発になり、介護職員等によるたんの吸引等を解禁する方向での法改正が本格的に検討されることとなった。
 2009年8月から2010年3月に「チーム医療の推進に関する検討会」が開かれ、3月19日に出された「チーム医療の推進について(チーム医療の推進に関する検討会報告書)」では、看護師の負担軽減を図るとともに、患者・家族のサービス向上を推進する観点から、介護職員と看護職員の役割分担と連携をより一層進めていく必要性が明記され、介護職員による一定の医行為(たんの吸引や経管栄養)の具体的な実施方策について、早急に検討すべきであると報告された(厚生労働省[2010(3)])。
 2010年6月18日には菅直人総理大臣(当時)の下で「新成長戦略」が閣議決定された。「不安の解消、生涯を楽しむための医療・介護サービスの基盤強化」の具体的な方法のひとつとして、医療・介護従事者の役割分担の見直しを行うことが示されている(首相官邸[2010(1):19])。「規制・制度改革に係る対処方針」において「医行為の範囲の明確化(介護職による痰の吸引、胃ろう処置の解禁等)」が規制改革事項の一つとなり、「医療安全が確保されるような一定の条件下で特別養護老人ホームの介護職員に実施が許容された医行為を、広く介護施設等において、一定の知識・技術を修得した介護職員に解禁する方向で検討する。また、介護職員が実施可能な行為の拡大についても併せて検討する」と明記された(内閣府[2011:8])。
 2010年6月29日には「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」が閣議決定された。そのなかで個別分野における基本的方向と今後の進め方の項目として、「たん吸引や経管栄養等の日常における医療的ケアについて、介助者等による実施ができるようにする方向で検討し、平成22年度内にその結論を得る。」と記載されている(内閣府[2010:5])。
 こうした政治的機運も背景にあって開催されたのが、「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方に関する検討会」である。

3-2. 検討会の構成

 検討会は、厚生労働省の厚生労働省老健局振興課が事務局となり、18名の構成員が参加した。構成員の一人、独立行政法人国立長寿医療研究センター総長・大島伸一氏が座長を務め、各回の議事進行、議論の取りまとめを担った。構成員には、たんの吸引等の医療的ケアを必要とする利用者本人またはその家族を代表する立場、医療・看護・介護・教育といったケアの実施に関わる者を代表する立場、法や政策等の学識者など様々な関係者が選ばれた。図表2に、構成員の名前・所属と共にその立場を整理した(いずれも所属・肩書きは検討会開催当時のもの)。

図表2. 「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方に関する検討会」構成員一覧
名前 所属・肩書(当時) 立場
大島 伸一 独立行政法人国立長寿医療研究センター総長 検討会の座長
(座長)   同センターは高齢者保健の医療・研究機関。本人は泌尿器科が専門の医師
岩城 節子 社会福祉法人全国重症心身障害児(者)を守る会評議員 ケアを受ける側:
    重症心身障害児(者)の
    保護者による組織
橋本 操 NPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会理事長・日本ALS協会副会長 ケアを受ける側:
    ALS患者・支援者の組織
因 利恵 日本ホームヘルパー協会会長 ケア実施に関わる側:
    ホームヘルパーの職能団体
中尾 辰代 全国ホームヘルパー協議会会長 ケア実施に関わる側:
    ホームヘルパーの職能団体
内田 千恵子 日本介護福祉士会副会長 ケア実施に関わる側:
    介護福祉士の職能団体
河原 四良 UAゼンセン同盟日本介護クラフトユニオン会長 ケア実施に関わる側:
    介護従事者の労働組合
川崎 千鶴子 特別養護老人ホームみずべの苑 施設長 ケア実施に関わる側:
    ケアの現場の一つである、特別養護老人ホームの運営者
桝田 和平 全国老人福祉施設協議会介護保険委員会委員長 ケア実施に関わる側:
    高齢者福祉施設が加入する全国団体。調査や研修等を実施
白江 浩 全国身体障害者施設協議会副会長 ケア実施に関わる側:
    身体障害者支援施設が加入する全国団体。調査や研修等を実施
三室 秀雄 東京都立光明特別支援学校校長 ケア実施に関わる側:
    ケアの現場の一つである、特別支援学校の運営者
太田 秀樹 医療法人アスムス理事長 ケア実施に関わる側:
    栃木県で診療所、訪問看護ステーション、グループホーム等の複数事業所を運営
齋藤 訓子 日本看護協会常任理事 ケア実施に関わる側:
    保健師・助産師・看護師・准看護師の職能団体
三上 裕司 日本医師会常任理事 ケア実施に関わる側:
    医師の職能団体
川村 佐和子 聖隷クリストファー大学教授(看護学部・看護学科) 学識者:
    看護師養成を担う教育機関
黒岩 祐治 ジャーナリスト、国際医療福祉大学大学院教授 学識者:
    フジテレビで救急医療特集等を経験後、医療・福祉に関する報道・メディアについて研究
島崎 謙治 政策研究大学院大学教授 学識者:
    社会保障政策、特に医療政策を専門に研究
平林 勝政 國學院大學法科大学院長 学識者:
    医療・看護をめぐる法と制度を専門に研究

3-3. 検討会の議題と進行

 検討会は2010年7月5日から2011年7月22日にかけて全9回開催された。事務局の厚生労働省老健局振興課が、各回の議題と、それに応じた資料(論点整理メモや、前回までの議論を踏まえた法案・研修・施行事業等の具体案)を用意したほか、構成員から資料が提出され、議論に使われることもあった。開催要綱には、検討課題として(1)介護職員等によるたんの吸引等の実施のための法制度の在り方、(2)たんの吸引等の適切な実施のために必要な研修の在り方、(3)試行的に行う場合の事業の在り方の3つが挙げられており、検討会内での実際の議論も、概ねこの3つの課題に関連する内容となった(厚生労働省[2010(4)])。
 また、厚労省が作成した第1回配布資料6「介護職員等によるたんの吸引等の実施について法的措置を講じる場合に考えられる主な論点(案)」では、より具体的な論点が示されている。1つ目の論点は「対象の範囲」である。その内訳として、たんの吸引・経管栄養等の実施可能な「行為の範囲」、介護福祉士やホームヘルパー等、ケアを実施可能にする「介護職員等の範囲」、介護施設や居宅、障害者施設や特別支援学校等、ケアが行われる「場所の範囲」の3つを検討する必要があるとされた。2つ目の論点は、「医師・看護職員と介護職員等との連携体制の確保等の要件」であり、3つ目と4つ目は開催要綱と同様の「研修の在り方」と「試行事業の在り方」である。各論点について検討会で交わされた議論の内容や結論は次項で詳しく述べる(厚生労働省[2010(5)])。
 次に、全9回の検討会がどのように進み、最終的な法改正に至ったか、全体の流れを概観する。第1回〜第3回(2010年7月5日〜7月29日)までは、たんの吸引を取り巻く現状と課題を確認しながら、法制度のあり方と研修のあり方について意見を出し合うことが中心となった(厚生労働省[2010(6)(7)(8)])。

 並行して、10月から実施予定の施行事業の案を、検討会の議論をもとに厚労省が作成し、第3回および第4回(8月9日)ではその内容の検討も行われた。この際、検討会とは別に、施行事業の実施や評価についてのアドバイザー委員会が立ち上げられ、検討会委員のうち、大島座長、内田委員、太田委員、川崎委員、川村委員、橋本委員がアドバイザーに就任した(厚生労働省[2010(8)(9)])。
 第4回終了から第5回(11月17日)開催までの間に起こった出来事についても述べる。9月26日に菅直人総理大臣(当時)から厚労省宛に総理指示「介護・看護人材の確保と活用について」が出された。介護職員が医療的ケアを実施できるよう法整備の検討を早急に進めること、また適切な実施のための研修事業を本年度中に前倒しで実施することが指示され、第5回検討会でも共有された(首相官邸[2010(2)], 厚生労働省[2010(10)])。
 また、介護福祉士やホームヘルパー等さまざまな介護職員のたん吸引について議論していた本検討会での議論内容は、別途、介護福祉士養成の在り方を議題として同年3月より開催されていた「今後の介護人材養成の在り方に関する検討会」にも影響を与え、10月12日の同検討会の議題に「介護福祉士によるたんの吸引等について」が盛り込まれることとなった。結果、第5回検討会には、今後の介護福祉士養成カリキュラムの中にたんの吸引等に関する内容を追加する必要があるとの意見が提出された(厚生労働省[2010(11)])。10月29日には試行事業がスタートし、以後の検討会では、試行事業の進捗が毎回報告され、議題に上るようになった。

 こうした動きを受けて11月17日に開催された第5回の検討会では、国家資格である介護福祉士と、ホームヘルパー等その他の介護職員それぞれについて、たんの吸引等の実施やそれを可能にするための養成課程・研修内容等の扱いをどうすべきかの議論が行われた(厚生労働省[2010(10)])。
 第6回検討会(12月13日)では、公表を予定している「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方について 中間まとめ」の案が厚労省より提出され、その内容について議論が交わされた(厚生労働省[2010(12)])。その後、中間まとめは12月16日に公表された(厚生労働省[2010(13)])。
 翌年2011年2月21日の第7回では、試行事業の実施状況の中間報告を受けて、研修の内容や方法についてより細部にわたっての議論が行われた(厚生労働省[2011(1)])。
 施行事業の結果検証を行うための第8回検討会は6月30日に開かれたが、検討会委員に連絡がないまま、法案が3月11日に閣議決定され、4月に国会上程され、衆参両院で通ってしまったことに対して、委員から疑問や批判がなされた。法律レベルで定められたのは検討会の中間まとめを踏襲した制度の大枠であり、実施可能な行為の範囲や研修等の具体的な中身は省令レベルで定めるものではあるものの、厚労省は、連絡の不備があったことについて委員にお詫びした(厚生労働省[2011(2)])。
 第9回検討会(7月22日)では、引き続き施行事業の結果検証が行われたほか、厚労省が作成した「省令等に規定する事項案」をもとに、研修機関の登録要件や安全確保措置等の細目について議論がなされた。最後に大島座長と厚労省の宮島老健局長が総括を行い、閉会となった(厚生労働省[2011(3)])。

3-4. 論点ごとの議論の詳細

 ここからは、各種検討課題と論点について、検討会各回でどのような議論が行われ、結論に至ったかを詳述する。

3-4-1. 検討課題(1) 介護職員等によるたんの吸引等の実施のための法制度の在り方について

 総論として、介護職員等がたんの吸引等を実施できるようにするという方向性自体には反対する委員はいなかったが、全9回の検討会の中で繰り返し議論になったのが、たんの吸引等を「医行為」とするのかどうかという論点であった。ここまでの経緯で述べた通り、たんの吸引や経管栄養といった医療的ケアは、法律上は医師や医師の指示を受けた看護師等の医療職しか行ってはならない「医行為」と定義するのであれば、介護現場の実情を踏まえて「実質的違法性阻却」とすることで、介護職員等が行っても違法性を問われないようにする、という扱いであった。
 今回の法改正に当たっては、大きく3つの選択肢が検討会で議論された。1)法的には医行為に含め、研修修了や医療職との連携等の「一定の条件」の下に、介護職員が業務として行えるようにする、2)医行為に含め、たんの吸引等の医療的ケアを独占的に行える新たな医療資格をつくる、3)医行為から外し、誰が行っても違法性を問われない行為とする、の3つである。結論としては1)の道が選ばれ、1-2.で述べた通り、法律と省令を組み合わせて扱いを定めることとなったが、検討会では繰り返し議論が紛糾した(特に第1回〜第4回、第6回は所要時間の大半がここに費やされた)。
 2)の新たな資格をつくるという選択肢については、早期に棄却された。「ケアを受ける側」を代表する委員の一人である、NPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会理事長・日本ALS協会副会長の橋本委員は、第1回検討会にて、重度訪問介護の地域間格差やヘルパーが常時不足している実情を述べ、新たな資格要件を設置することは、ヘルパーの増員・定着の抑制や、当事者の個別性が無視されることにつながりかねないと主張した(厚生労働省[2010(6)])。また、日本医師会の三上委員も同じく第2回検討会にて、「医行為の範囲のままでこれを可能にするためには、いわゆる業務独占資格を新たにつくらなければいけない。それは非常に混乱するので、医行為から外すべきである」と述べている(厚生労働省[2010(7)])。医行為に含めるか外すかという1)と3)の立場の違いによらず、資格を設けるべきと強く主張する委員はいなかったため、第2回検討会の終わりに、大島座長が「今のところでは新たな資格をつくるべきだというような御意見はなかったと理解しています。(中略)資格ということよりも、安全・安心を確保していくためには相当きちんとした研修教育体制をつくっていく必要があるだろう」とまとめて終了した(厚生労働省[2010(7)])。
 3)の立場、すなわち、たんの吸引等を医行為から外すべきと主張したのは日本医師会の三上委員である。介護福祉士の業務がたん吸引等を含むものへと拡大することに反対しているわけではないと強調しながら、それを「医行為」のまま法制化することは混乱を招くであろうとの懸念を示した。医行為は、訓練された医療専門職が行わなければ人体に危害を及ぼすおそれがある行為であるゆえに、その業務独占性を定めた「医師法17条を解除するための法律というのは、非常に厳格で、17時間とか50時間とか、そんな簡単な研修で医行為を解除すること」はなかったのであり、たん吸引がその実例となることで、今後さまざまな行為が「これが突破口になって幾つもできるという形になるので、私は後々後悔するんではないかということを申し上げました」と述べている(厚生労働省[2010(9)])。資格要件を設けることについては、三上委員含めいずれの委員も不要との立場だったが、医行為のまま研修等の「一定の条件」を備えた者のみたん吸引等を可能にするということは、実質的に業務独占資格になってしまう、それならば医行為から外した方が良いというのが三上委員の主張であった。
 一方で、たんの吸引等を行うことになる介護側の意見として、日本介護福祉士会の内田委員から、「医行為から外してしまうことで、例えば医療職の関与がなくなるといったようなことでは、やはり現段階ではまずいと思うんです。」「介護職が不安に思っているというのは、法的に違法なことをしているからではないかと心配することももちろんあるかもしれませんけれども、一方では技術だけではなくて知識も不足していてうまく判断できなかったりとか、あるいはそのことが事故につながったりというような危険性もやはり感じているわけです」(厚生労働省[2010(7)])と、医行為から外した場合の安全面への不安が述べられた。また、将来的にたんの吸引や経管栄養以外の行為にも拡大していく可能性についても、三上委員が懸念するようにむやみやたらと拡大されるものではなく、生活支援の一貫ととらえられ、ニーズがあるのであれば検討すべきものである、と主張した。
 政策研究大学院大学教授の島崎委員と、國學院大學法科大学院長平林委員は、学識者として医行為の解釈や位置づけについての議論に参加しつつも、法的な位置づけがどうあれ、吸引行為の安全性を担保するために医師が関与して一定の「メディカルコントロール」を働かせることが本質的に重要であると主張した(厚生労働省[2010(8)])。
 メディカルコントロールの必要性については三上委員も同意しており、介護職員等が吸引行為を業として行う場合の訓練も必要であると考えているが、それは医行為から外した上でも可能だと主張した爪切りや耳垢の除去といった行為が原則として医行為ではない、すなわち誰が行っても違法性を問われないものであるとの解釈を示した、2005年の医政発第0726005号通知「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第32条の解釈について」を第3回検討会で参考資料として提出し、たんの吸引等もこの通知と同様のロジックで医行為から外して行えば良いと提案した(厚生労働省[2010(8)])。
 同通知内の、「病状が不安定であること等により専門的な管理が必要な場合には、医行為であるとされる場合もある。このため、介護サービス事業者等はサービス担当者会議の開催時等に、必要に応じて、医師、歯科医師又は看護職員に対して、そうした専門的な管理が必要な状態であるかどうか確認することが考えられる」、「業として行う場合には実施者に対して一定の研修や訓練が行われることが望ましいことは当然であり、介護サービス等の場で就労する者の研修の必要性を否定するものではない。」、「看護職員による実施計画が立てられている場合は、具体的な手技や方法をその計画に基づいて行うとともに、その結果について報告、相談することにより密接な連携を図るべきである。」(厚生労働省[2005(1)])といった内容に触れ、医行為から外してもメディカルコントロールを働かせることや、研修や訓練を課すことは可能であり、スピードを持って決着できるはずだと主張している(厚生労働省[2010(8)])。
 この三上委員の案に対して島崎委員は、たんの吸引と言っても口の中だけの吸引と気管カニューレ内の吸引では対応が違うという例を挙げて三上委員の見解を尋ね、「口の中とカニューレについて、見える範囲については医行為でない。見えないところについては、一応だめだと」(厚生労働省[2010(8)])という回答を得た。
 これを受けて平林委員は、法律論としては、抽象的なレベルで危険がある行為は医行為だと考えられているのであり、島崎委員と三上委員が場合分けした吸引のように「ある時は医行為になってある時は医行為ではない」と考えらえるような行為は、抽象的な危険がある以上、それは医行為なのであるとの見解を述べた。また、ここでいくら議論をしても「すべて医行為ではないということにはならないわけで、通知だけでは問題の解決はできない」「安全であるためには、教育あるいは研修を受けるということが必須の要件になっているわけで、その必須の要件である教育とか研修を1つの通知で義務化できるかというと、これもやはり難しい」(厚生労働省[2010(8)])などとも述べており、三上委員が提案した2005年の通知の応用は、たん吸引の場合は適した手段ではないとの立場を取った。
 たんの吸引等を「医行為」とするかどうかの議論は平行線を辿り、全委員が同意する一つの結論を出すに至ることはなかった。大島座長は、「たんの吸引や経管栄養を安全で確実な方法でそれを求めている方達に届ける状態をつくる」ための議論が検討会の目的であり、医療行為そのものをどう考えるかということは本質的な問題であるものの、深く踏み込むことはこの会議の役割ではないとした(厚生労働省[2010(6)])。三上委員が主張してきた医行為から外すという考え方も「一つの選択肢としては間違いなくある」(厚生労働省[2010(12)])とした上で、たん吸引や経管栄養を爪切り等の簡単な行為と同様に扱って医行為から外すことには、他の委員からの賛同が得られなかったこと、相当慎重な議論を必要とする課題ではあるが、この検討会で扱うには時間が足りないこととも述べ、医行為から外すかどうかという論点については、中間まとめの付記事項に記載するに留めることとした。
 法制度の在り方に関係するその他の論点についても、以下に議論の内容を述べる。法制化する「対象の範囲」のうち、実施可能な「行為の範囲」については、最終的に省令で定められた、たんの吸引(口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部)と経管栄養(胃ろう、腸ろう、経鼻経管栄養)を解禁することを大枠の方針として議論が進み、特に大きく意見が分かれることはなかった。
 厚労省は、これまで違法性阻却運用によって許容されていたものができなくなることがないように配慮をし、特別支援学校、在宅、特別養護老人ホーム等それぞれ詳細な範囲の違いはあるが、「運用で認めていた範囲の一番広い部分を組み合わせ」る形で案を作成したと説明している(厚生労働省[2010(7)])。
 また、将来的な対象行為の拡大可能性についても検討会で議論された。たとえば、全国重症心身障害児(者)を守る会の岩城委員は、第1回検討会の提出資料で「自己導尿の補助」を含めることを要望しており(厚生労働省[2010(14)])、光明特別支援学校の三室委員は、補助を超える導尿の指導を教員が行う可能性について言及していた(厚生労働省[2010(8)])。NPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会・日本ALS協会の橋本委員も、将来的に拡大すべき行為として「導尿介助、摘便、ストーマのパウチ張替え、 気管カニューレ等のガーゼ交換など」を挙げている(厚生労働省[2010(15)])。こうした議論を踏まえ、「まずは、たんの吸引及び経管栄養を対象として制度化を行うが、将来的な拡大の可能性も視野に入れた仕組みとする」との文言が中間まとめにも盛り込まれることとなった(厚生労働省[2010(13)])。なお、「自己導尿の補助」については、過去の通知で医行為ではないと整理されているため、今回の法改正の内容によらず実施に問題はないことが第3回の議論の中で確認されている(厚生労働省[2010(8)])。
 たんの吸引等を実施する「介護職員等の範囲」については、介護福祉士とそれ以外の介護職員等を広く含むものとされた。中間まとめの中では、「介護福祉士以外の介護職員等(訪問介護員等の介護職員とし、保育所にあっては保育士、特別支援学校等にあっては教職員を含む。)」(厚生労働省[2010(13)])と具体例も記載され、これまでの運用が狭められることなく、検討会出席委員が代表するさまざまな職種が「介護職員等」として包含される定義となった。
 ただし、検討会の議論の過程では、最初から「介護職員等」に誰が含まれるかという明確なイメージが共有されていたわけではなかったため、各委員が都度、自身の関わる現場の状況を説明しながら、実施可能な職員が狭められることのないよう確認を行っていた。第2回終了時に大島座長が「具体的に行うのはヘルパー、介護福祉士ということにとりあえず今回は限定してもいいんじゃないか」(厚生労働省[2010(7)])と述べたところ、光明特別支援学校の三室委員がヘルパー等に限定されてしまうと教員ができなくなるとの懸念を表明したほか、第3回で全国重症心身障害児(者)を守る会の岩城委員が、重症心身障害児者の通所・通園施設には保育士や児童指導員といった、介護福祉士・ホームヘルパー以外の職員も多くおり、それらも対象に含めるべきと主張し(厚生労働省[2010(8)])、これら多様な職種名が中間まとめの例示に盛り込まれることとなった。
 他方で、介護福祉士以外の介護職員等がたんの吸引等を行えることについて、「※介護福祉士のみでは現に存在するニーズに対応しきれないこと、介護福祉士養成施設の体制整備や新カリキュラムでの養成に相当の期間を要することに留意」(厚生労働省[2010(13)])との注意書きが中間まとめに付されている。これは第5回検討会で、「介護人材養成の在り方に関する検討会」から「介護福祉士は、福祉・介護現場において中核的な役割を担う専門職であることにかんがみ、今後養成される介護福祉士には、その本来業務として、たんの吸引等を実施することが求められる。」(厚生労働省[2010(11)])との意見が出されたこと、日本ホームヘルパー協会の因委員と日本介護福祉士会の内田委員の2名が、介護の現場は原則介護福祉士が担っていくようにすることが国の方針であり、ホームヘルパーがそれを担うのはあくまで経過措置であるとの見解を述べたことに配慮したものであると考えられる(厚生労働省[2010(10)])。
 介護職員によるたん吸引等を認める「実施場所の範囲」については、一定のニーズはあるが看護職員だけでは十分なケアができない施設、在宅等の介護現場で、医師・看護職員と介護職員等の適切な連携・ 協働が確保されていることを条件として認められることとなった。具体的にはどのような場所かという例として、介護関係施設(特別養護老人ホーム、老人保健施設、グループホーム、有料老人ホーム、通所介護、短期入所生活介護、等) 、 障害者支援施設等(生活介護、グループホーム、等) 、 在宅(訪問介護、重度訪問介護(移動中や外出先を含む)、等) 、特別支援学校が中間まとめにも明記され(厚生労働省[2010(13)])、そのまま法制化に至った。「介護職員等の範囲」に関する議論と同じく、検討会出席委員の立場・要望が取り入れられ、入所・通所施設、在宅、特別支援学校など、ニーズのある高齢者・障害児者が過ごす場所が幅広くカバーされた内容となっている。
 検討会での実際の議論の順序および厚労省が作成する資料の内容としては、まず介護施設と障害者施設を対象として想定されており(厚生労働省[2010(7)])、次いで在宅・特別支援学校も検討の対象となり(厚生労働省[2010(7)(8)])、さらに障害者自立支援法の重度訪問介護を受けている場合の移動中や外出先 ・ 介護保険法の通所介護や短期入所生活介護の事業所も対象にすべきかどうかが議題に挙げられた(厚生労働省[2010(10)])。検討の順序はあるが、厚労省としても医療との連携が取れればいずれも認めて良いのではないかというスタンスであり、検討会委員からも異論がなかったため、いずれも順当に認められ、資料に盛り込まれた。
 実施場所について意見が分かれたのは、医療機関を対象に含めるかどうかである。結論としては、今回の法改正においては医療機関は対象外とすることとなった。日本看護協会の齋藤委員は、医療機関を対象に含むことに反対であった。医療機関に指定されている施設は当然看護職員配置によって対応すべきであること(厚生労働省[2010(7)])、そもそも今回の法制化は介護現場でニーズのある方へのたん吸引等を可能にするためであり、そうした方々に比して医療機関で入院・療養している患者は状態が安定しておらず、介護職員が医療行為を行うことは適切ではないこと(厚生労働省[2010(8)(10)])を理由として述べた。
 日本医師会の三上委員、全国老人福祉施設協議会の桝田委員、国際医療福祉大学大学院の黒岩委員は、医療機関も対象に含めて良いのではないかという意見であった。三上委員は、介護療養型医療施設には看護助手と呼ばれる職員が介護職のような形で配置されており、そこでは20%近い方が喀痰吸引を頻繁にされているため、見る頻度もやる可能性も十分にあると述べた(厚生労働省[2010(8)])。桝田委員は、医療機関には医師も看護職員もおり、一番安全な場所であるはずなのに、研修を受けて介護現場でたん吸引等をできるようになった介護職員が、その後病院に勤めることになったら出来なくなるというのは変ではないか、と意見し、黒岩委員も、医療機関に入ると、突然介護職がたんの吸引ができなくなるというのは、やはりおかしいと思うと述べた(厚生労働省[2010(10)])。
 こうした議論を踏まえて、厚労省の川又振興課長は、介護現場における不安定な状態を解消することが議論の目的であること、医療の現場については看護職員等が十分に配置されていることを述べ、今回の法改正においては医療機関を含める必要はないのではないかとの見解を述べた(厚生労働省[2010(10)])。國學院大學法科大学院の平林委員も同様に、介護、教育、保育の現場に医療関係者が日常的に入っていってたんの吸引等を行うことは現実的に不可能である状況の中で、介護職、教員、保育士等がそれらを実施可能にするということで問題を解決することが今回の制度化の趣旨・目的であり、病院の中での問題は少なくとも当面は出てこないだろう、との見解を述べた(厚生労働省[2010(10)])。
 「医師・看護職員と介護職員等との連携のあり方」については、適切な連携が必要であることに異論はなく、検討会での議論や施行事業の結果を踏まえて、順次詳細な要件が定められていった。施設と在宅で状況が大きく異なるため、たとえば心身の状況に関する情報共有の方法として、「施設の場合は、配置医や配置看護師等の関与を業務方法書等により担保。在宅の場合は、介護職員から看護職員への日常的な連絡・相談・報告等についての取り決めの文書化など」(厚生労働省[2011(4)])と、状況の違いに応じたマニュアル整備が必要であるという点が強調された。
3-4-2. 検討課題(2) たんの吸引等の適切な実施のために必要な研修の在り方について
 研修のあり方については、検討会内の議論だけでなく、期間中に並行して行われた試行事業の進捗・結果や、試行事業のアドバイザー委員会での議論なども経て決まっていった。最終的に、以下3つの類型に研修が分かれることとなった。1つは、たとえば特別養護老人ホームなどの施設職員など「不特定多数」の者にたん吸引等を行うための研修で、対象となる行為のすべて(たんの吸引については口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部すべて、経管栄養についても胃ろう、腸ろう、経鼻経管栄養すべて)を行えるようにする研修類型である。2つ目は、同じく「不特定多数」の者を相手とするが、気管カニューレ内吸引と経鼻経管栄養を除き、口腔内、鼻腔内のたん吸引と、胃ろう、腸ろうでの経管栄養のみ行えるようにする研修類型である。3つ目は、たとえばALS患者への重度訪問介護ヘルパーや特別支援学校教員など「特定の者」へのケアを担当する職員が、その人に必要な行為のみ出来るようになるための研修類型である。
 いずれの類型も、講義とシミュレーター演習による「基本研修」と、施設や在宅での「実地研修」を組み合わせた研修となっている。基本研修は、不特定多数の場合は講義50時間+シミュレーター演習、特定の者の場合は講義および演習で9時間(※重度訪問介護従事者養成研修と併せて行う場合には合計20.5時間)と、研修時間に差を設けている。また、介護福祉士の養成課程にもたんの吸引等が組み込まれることとなった(厚生労働省[2012])。以下、この研修形式に至るまでの検討会議論の経緯と、各委員の発言の分析結果を述べる。
 第3回検討会で、厚労省から試行事業の案が提出され、その中で研修の具体的な内容も案として盛り込まれていた。この時点ですでに、基本研修と実地研修という基本的な形式は示されていたが、不特定多数と特定の者で類型を分けるという選択肢はまだ俎上に載っていない。そのため、基本研修の講義50時間と記載に対して不安や懸念を示す委員もおり、議論が一時紛糾した。
 NPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会・日本ALS協会の橋本委員は、少ないヘルパーが交代制で24時間つきっきりの介護をしているALS患者の在宅生活の実情を説明し、個別性が高いため他の人と簡単に交代ができず、50時間の研修時間を確保することはできないと述べた。重度訪問介護の枠組みの中で、20時間の研修と一人ひとりの利用者(=特定の者)に合わせた現場実習で対応してきた実績に触れながら、「さくら会関係の28団体に昨日聞きましたら、今は20時間の中でやっておりますけれども、これ以上の研修義務を課されたらどこもできない、ALSに派遣するのは辞めるというふうに言われました。」(厚生労働省[2010(8)])と強い懸念を示した。
 全国重症心身障害児(者)を守る会の岩城委員も、「小さな施設等から、通常勤務の中でこの時間をそれぞれ1人ずつ出していくのは大変困難が伴うのではないか」(厚生労働省[2010(8)])と不安を表明した。こうした意見を受けて、全国老人福祉施設協議会の桝田委員は、「一般的な研修の場合は、いろいろな対象者の方を想定して教えていくという部分と、多分ALSの方も同じだと思いますが、1人の方に対して細かな部分をちゃんと教わって対応していくというのと、汎用的な部分とは変わってきますので、研修時間もおのずから変えてもいいと思うんです。」(厚生労働省[2010(8)])と、不特定多数と特定の者とで研修時間を分ける提案をした。
 第3回の議論を踏まえ、第4回検討会で厚労省が提出した修正案にも、「介護職員等に対する教育・研修の在り方についても、不特定多数の者を対象とする安全性を標準とするが、特定の者を対象とする場合はこれと区別して取り扱うものとする。」(厚生労働省[2010(16)])という記載が盛り込まれた。第4回では、橋本委員が再び重度訪問介護での7年間の運用実績を述べ、今回の試行事業の中でも、特定の者を対象とする場合のモデル事業をさくら会で実施・検証させてほしいと要請した(厚生労働省[2010(9)])。光明特別支援学校の三室委員も、これまでの特別支援学校での研修実例を紹介し、特定の者を対象にする場合には扱いを別にすることに支持を示した。第4回の橋本委員の提案の結果、試行事業においても、特定の者を対象とする場合の研修を別立てで実施することになり、NPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会が実施事業者となった。
 不特定多数を対象とする場合の研修に関しては、「50時間」という講義時間に対して、議論の時点では明確に賛成・反対を示す者はおらず、試行事業の結果を踏まえて検証すべきとの意見が大勢であった。特別養護老人ホームみずべの苑の川崎委員は、前年に行った高齢者施設でのモデル事業の結果を振り返りながら、50時間の検証はできていないが、やはり研修には十分な時間が必要であるとの認識を示した(厚生労働省[2010(9)])。日本ホームヘルパー協会の因委員も、不特定の場合のヘルパーは多くの技術や知識を持っておく必要があり、厚労省が示す50時間をまずやってみるべきとの意見を述べた(厚生労働省[2010(9)])。
 実地研修の場所については、利用者のいる場で行うことが重要であり、可能な限り施設、在宅等の現場で行うという方針が示された。総論としては反対は無かったが、一点、医療機関も実地研修の場所に含みうるかどうかが第3回検討会で議論になった。3-4-1.にて、たん吸引等の「実施場所の範囲」から医療機関が除外された経緯はすでに述べたが、日本看護協会の齋藤委員は実地研修の場所としても、同じく医療機関は適切ではないとの意見であった。医療施設には介護の現場と比べて医薬物品や人員体制が整っており、ケアの現場である患者の自宅等とは環境が乖離しているため、研修場所として適さないという理由を述べた(厚生労働省[2010(8)])。聖隷クリストファー大学の川村委員も、病態の変化が激しい方が多い病棟の状況では、看護学生でさえもなかなかこういった研修をするということは難しいと述べた(厚生労働省[2010(8)])。

 他方、日本医師会の三上委員は、研修は医療機関でする方が安全であり、連携を取りやすいと述べ、賛成の立場であった(厚生労働省[2010(8)])。全国ホームヘルパー協議会の中尾委員も、専門的な内容を学ぶ研修は医療機関の場で実施してほしいと、ヘルパーの立場から希望を述べた(厚生労働省[2010(8)])。
 賛否は分かれたが、最終的には厚労省が「教育・研修の機会を増やす観点から、介護療養型医療施設、重症心身障害児施設など医療機関として位置づけを有する施設であっても、実地研修の場としては認める」と整理し(厚生労働省[2010(10)])、その後再びの議論はなかった。
 第8回、第9回の検討会では、試行事業の実施結果が資料として出され、気管カニューレ内部の実地研修が、他のケアよりも進行率が低かったことなどが判明した。他の行為と比べてニーズのある人が少ないため研修実施回数が少なくなったことが理由である。こうした試行事業の結果を踏まえて、不特定多数の場合の研修に、気管カニューレ内の吸引・経鼻経管栄養を除いた2類型目を設けることとなった(厚生労働省[2011(3)])。
 国家資格である介護福祉士に関しては、基本研修に相当するものを養成カリキュラムに盛り込み、実地研修も養成課程中に可能な限り実施する(または資格取得後に登録事業者にて実施)こととし、2015年度(平成27年度)以降に介護福祉士の養成課程を卒業した者は、業としてたんの吸引と経管栄養が行えるようになるとされた。それ以前にすでに介護福祉士である者は、10年間の経過措置期間で追加研修を受講することも法律で定められた。また、介護福祉士以外の介護職員等を対象とした研修を修了した介護福祉士は、2015年度の制度移行を待たずして、たんの吸引・経管栄養を行っても良いと厚労省からの補足説明があった(厚生労働省[2011(3)])。

3-4-3. 検討課題(3) 試行的に行う場合の事業の在り方について

 試行事業は、10月下旬から不特定多数に対して、11月上旬から特定の者に対しての類型が実施された。試行事業の趣旨・位置づけについて、第2回検討会で厚労省から「制度のあり方に関する議論の状況を踏まえつつ、一定の範囲で試行事業を行うこととし、その結果を踏まえ、更にこの検討会で議論を行っていただいてはどうかということ。ただし、その試行事業をやるということになりますと、少なくともその際は法律はないわけでございますので、『実質的違法性阻却論』の考え方に沿って要件設定等を行うことが適当ではないか。」(厚生労働省[2010(7)])との説明がなされた。検討会全体を通して法制化を見据えた議論を詰めていきつつも、試行事業の結果を分析した上で、さらに制度の詳細を検討する、という位置づけであった。
 試行事業そのもののあり方については、前項の通り、第4回検討会での橋本委員の提案によって新たに「特定の者」に対する試行事業を実施することになったことが、検討会の議論が影響した大きな変更点である。
 試行事業の結果が最終的な制度のあり方に影響した点は、前項で述べた通り、不特定多数の研修を2類型に分けることとしたのが大きい。その他には、講義のわかりやすさに関する講師・受講者のアンケート結果を踏まえて、不特定多数の研修カリキュラムの内容変更の可能性が議論された。具体的には、吸引と比べて人工呼吸器の使用に対して、また成人と比べて小児への吸引に対して、受講者の理解・関心が低い傾向にあったことから、これらも研修類型を分けて対応してはどうかとの意見が出た。これは、試行事業の参加者に高齢者施設の介護職員が多かったことが影響していると分析された。全国老人福祉施設協議会の桝田委員は、「余りにもできる範囲を広げていくと、関心のないところまで技術を高めていかなければいけないのと、実際に実地研修の方に入っていくと、対象者が全くいないということが起こってきます。」(厚生労働省[2011(1)])と述べ、成人の場合と小児の場合、吸引と人工呼吸器を分けたカリキュラムで行うことを提案した。
 一方、医療法人アスムスの太田委員は、小児の施設である重度心身障害児施設も高齢化しており、65歳を超える入所者もいるという実情を話し、「今回の研修はベーシックなものですから、特に小児と成人と分けて教えるというよりは、両者に共通するところから指導するということが妥当だと思います。」(厚生労働省[2011(1)])と述べた。また人工呼吸器については、技術発展により最近は小型かつメンテナンスも容易になっていると述べ、医師も含めて人工呼吸器に苦手意識を持っている者は昔の「大変物々しい」人工呼吸器の印象が強く、それがアンケート結果に影響しているのだろうと分析した。
 光明特別支援学校の三室委員も、「私どもは特別支援学校ですので、子どもたちを対象にします。範囲が限られてしまって、福祉士の方あるいはいろんな方の研修体系からはずれてしまって、養成ができなくなってしまうということは危惧します。当然、学校では養成していきますけれども、いろんな範囲が含まれた研修が広く行われることの方が、広がりができるのではないかと思っています。」(厚生労働省[2011(1)])と、小児と成人を分けることによる人材養成面への懸念を述べた。議論はあったが、最終的には、人工呼吸器および小児・成人に関して研修類型を分けることはせずに、不特定多数の研修受講者全員が学ぶべきカリキュラムとなった。

4. 考察――検討会委員の構成・意見の法制度への影響

 今回の検討会には、医療的ケアを必要とする利用者本人またはその家族を代表する立場、医療・看護・介護・教育といったケアの実施に関わる者を代表する立場、法や政策等の学識者など、「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方」というテーマに関係する様々な委員が集められた。
 ケアを受ける側であり、これまでの「実質的違法性阻却」の下での介護現場の対応をよく知る橋本委員(在宅療養ALS患者について)、三室委員(盲・聾・養護学校の児童生徒について)、岩城委員・白江委員(ALS以外の在宅療養患者・障害者)、川崎委員(特別養護老人ホーム入所者)が参加したことにより、新たな法制度が、それぞれの現場にかえって不利益を生じさせないようにするべきであると、検討会の議論でも繰り返し強調・確認されることとなった。
 具体的な法制度の中身である「行為の範囲」「介護職員等の範囲」「実施場所の範囲」については、3-4-1.にまとめた通り、概ね現場のニーズが幅広くカバーされる結果になったが、「実施場所の範囲」には施設以外の在宅や特別支援学校、重度訪問介護の移動中も含みうること、「介護職員等」には介護福祉士やヘルパー以外にも保育士や教員も含みうること、など、上記の委員たちが議題ごとに具体例を細かく挙げて確認を取っていった。厚労省の中間まとめにもそれらの具体例が明記される結果となったことは、これらの委員の働きかけの影響が大きいと言える。
 研修制度のあり方そのものに大きく影響したのは、NPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会・日本ALS協会の橋本委員の発言であり、20.5時間の基本研修と利用者在宅での長期に渡っての実地研修という重度訪問介護の枠組みでの運用実績を示し、初期に出された厚労省の素案で想定されていなかった「特定の者」を対象にした研修類型を立ち上げることに至った。この類型が設けられないまま法制化がされれば、在宅ALS患者だけでなく、盲・聾・養護学校の児童生徒など、個別性の高い少数の関係での医療的ケアがほとんど実現不可能になってしまっていたであろうことから、橋本委員をはじめ、介護現場、特にケアを受ける側を代表する者が法制度検討の過程に参加することの意義は大きいと言える。
 たんの吸引等を「医行為」から外すか残すかといった議論は、検討会の中でも繰り返し紛糾し、最後まで平行線となった。医行為から外すべきとの立場であった日本医師会の三上委員を含め、「介護職員等がたんの吸引等を実施できるようにする」という方向性自体には、委員の誰もが賛成・同意していた。にも関わらず議論が長時間・複数回に渡ったのは、たんの吸引等の「医療的ケア」という行為そのものの特殊性が影響していると考えられる。
 三上委員は、医行為は、訓練された医療専門職が行わなければ人体に危害を及ぼすおそれがある行為であるゆえに、業務独占行為として法律で厳格に定められているのであり、その原則を逸脱する実例をつくることが今後の混乱や危険を招くのではないかという立場であった。そして、2005年の通知を紹介し、たんの吸引の危険性は低いのであるから、ここで医行為から外された爪切り等と同じように扱うことが可能であると主張した。
 こうした三上委員の案に対して、法制度に関する学識者の立場から、政策研究大学院大学教授の島崎委員と、國學院大學法科大学院長平林委員が解説・翻訳の役割を担う形となったのが検討会の議論の特徴であった。たんの吸引といっても行う範囲によって難易度や安全性は異なり、抽象的にでも危険があるのであれば、爪切りのように一概に「医行為ではない」とすることは難しいのではないかという見解が出された。最終的には大島座長が議論を打ち切り、今回のたん吸引等の法制化においては、時間の制限や検討会の役割を理由に現行の医事法制下のまま対応する方針を取ったが、この医行為を巡る議論自体は、今後の医療的ケアにまつわる法制度を考える上で、重要な示唆を含んでいると言える。
 そもそも「医療的ケア」と呼ばれる行為・概念が立ち上がったのは、医療技術の発展や、人工呼吸器等の医療機器の小型化・普及等により、かつては生存が困難であったり医療機関から出られなかったような疾患・障害のある人が、たんの吸引や経管栄養等の一定の医療的な支援を受けながらも自宅や地域、学校で過ごせるようになっていったという時代の変化があったからである。
 島崎委員は第4回検討会で「医療的ケアの本質は何かと言ったら、それは本質的にはケアです。しかし、そこはだれでもやってもよいのかといえば、一定のメディカルコントロールなり、一定の研修が必要な領域ではないか。その方が安全なのではないか。そういうことを今議論しているんだと思うのです。」(厚生労働省[2010(9)])と発言した。
 すなわち、医療的ケアとは、「ケア」という言葉から見れば介護職員等が担い手となる「生活援助行為」であり、「医療的」という言葉から見れば医師・看護師等の医療職が担うべき「医行為」でもあるという、2つの性質を併せ持った行為である。であるからこそ、第2回で内田委員が「医行為から外してしまうことで、例えば医療職の関与がなくなるといったようなことでは、やはり現段階ではまずいと思うんです。」(厚生労働省[2010(7)])と不安を示したのであり、三上委員が2005年の通知をもとに提案した「爪切り」や「耳かき」といった行為と同様に、一律に「医行為ではない」とすることは出来ないとの意見が検討会時点では大勢となったのであろう。
 大島座長も医行為から外すことは「一つの選択肢としては間違いなくある」(厚生労働省[2010(12)])としており、今後の医療技術の発展によっては、現在「医行為」に留まっているたんの吸引や経管栄養の一部が、危険なく実施できると判断され、医行為から外れるという可能性もゼロではないであろう。また、現時点では介護職員等が担うことはない、医療機関内でのみ行われているなんらかの高度な治療行為が、将来いずれかの段階でたんの吸引等と同様に、在宅・施設でも可能な「医療的ケア」の領域に移ってくる可能性も当然考えられる。そうであるからこそ、今回の中間まとめにも将来的な行為の拡大可能性を否定しないという文言が盛り込まれたのである。同じく島崎委員は第3回検討会にて、「第3の行為とかというと話がややこしくなるのでやめますけれども、そういう日常的なケアという類型ができ、それに対しては全く野放図にしてよいわけではない。本当の純然たる医行為と言うと言い過ぎかもしれませんけれども、それとはレベルは違うかもしれないが、一定のメディカルコントロール下に置いておく必要がある。その実態を詰めればよい」(厚生労働省[2010(8)])と述べている。
 今後、たんの吸引や経管栄養に続いて、新たな「医療的ケア」の法制度上の扱いや現場での運用が議論されることになった際も、一律に医行為から外すかどうかではなく、医行為に置きながら「メディカルコントロール」を働かせるという今回と同様の対応が適切となることもあるだろう。一方で、今回そのような扱いとなったたんの吸引を含め、医療技術の発展や現場実態を踏まえて、いずれかのタイミングで医行為から外すという判断が適切となる場合もあると考えられる。
 いずれにせよその際の議論・判断においては、検討会でも繰り返し確認された「必要な人に必要なサービスを安全かつ速やかに提供すること」が最も重要であることは変わらない。今回の検討会は、大島座長が繰り返し会の目的を確認・強調し、事務局の厚労省もまとめ資料にそのことを明記しながら進められた。医事法制という専門性・抽象度が高い法制度との関係と、リアルな現場での実情やニーズを行き来しながら法制度のあり方を決める必要がある議論では、議論の目的や会の役割を出席委員全員と丁寧に共有・確認することが合意形成の上で非常に重要であったと言えるだろう。
 最後に、本稿の限界と今後の課題について述べる。本稿は「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方に関する検討会」の議事録を中心に、公表された資料のみを分析対象とし、介護職員等によるたんの吸引等の法制化に直結する論点に絞って分析を行っている。当時の検討会出席委員へのインタビューや、メールのやり取り等の非公開資料の収集・分析を行ったり、検討会や試行事業の中で語られたその他の論点にも焦点を当てることで、「医療的ケア」をめぐる新たな課題が抽出されることも十分に考えられる。本稿の整理・分析を入り口に、今後さらなる研究を進めていきたい。

■文献

厚生労働省 2003(1) 「『看護師等によるALS患者の在宅療養支援に関する分科会』報告書」, 看護師等によるALS患者の在宅療養支援に関する分科会 
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/06/s0609-4a.html (2022年3月15日取得)
厚生労働省 2003(2) 「ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の在宅療養の支援について」, 医政発第 0717001号 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta6777&dataType=1 (2022年3月15日取得) 
厚生労働省 2004 「盲・聾・養護学校におけるたんの吸引等の取扱いについて(協力依頼)」, 医政発第1020008号 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb2648&dataType=1 (2022年3月15日取得)
厚生労働省 2005(1) 「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31 条の解釈について(通知)」, 医政発第0726005号 https://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000g3ig-att/2r9852000000iiut.pdf (2022年3月15日取得)  
厚生労働省 2005(2) 「在宅におけるALS以外の療養患者・障害者に対するたんの吸引の取扱 いに関する取りまとめ」, 在宅及び養護学校における日常的な医療の医学的・法律学的整理に関する研究会 https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/03/s0310-4.html (2022年3月15日取得)  
厚生労働省 2005(3) 「在宅におけるALS以外の療養患者・障害者に対するたんの吸引の取扱 いについて」, 医政発第0324006号 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb2894&dataType=1 (2022年3月15日取得)
厚生労働省 2010(1) 「特別養護老人ホームにおける看護職員と介護職員の連携によるケアの 在り方に関する取りまとめ」, 特別養護老人ホームにおける看護職員と介護職員の連携によるケアの在り方に関する検討会 https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/03/dl/s0331-14a.pdf  (2022年3月15日取得)
厚生労働省 2010(2) 「特別養護老人ホームにおけるたんの吸引等の取扱いについて」, 医政 発0401第17号 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb5988&dataType=1 (2022年3月15日取得)
厚生労働省 2010(3) 「チーム医療の推進について(チーム医療の推進に関する検討会 報告 書)」 https://www.jshp.or.jp/cont/10/0323-3.pdf (2022年3月15日取得)
厚生労働省 2010(4) 「『介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方に関す る検討会』開催要綱」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000bhqz-att/2r9852000000bjh2.pdf (2022年3月15日取得)
厚生労働省 2010(5) 「介護職員等によるたんの吸引等の実施について法的措置を講じる場合 に考えられる主な論点(案)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000bhqz-att/2r9852000000bjpx.pdf (2022年3月15日取得)
厚生労働省 2010(6) 「2010年7月5日 介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制 度の在り方に関する検討会(第1回) 議事録」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000nexk.html (2022年3月15日取得)
厚生労働省 2010(7) 「2010年7月22日 介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制 度の在り方に関する検討会(第2回) 議事録」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000nw65.html (2022年3月15日取得)
厚生労働省 2010(8) 「2010年7月29日 介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制 度の在り方に関する検討会(第3回) 議事録」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r985200000125dh.html (2022年3月15日取得)
厚生労働省 2010(9) 「2010年8月9日 介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制 度の在り方に関する検討会(第4回) 議事録」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000012mgw.html (2022年3月15日取得)
厚生労働省 2010(10) 「2010年11月17日 介護職員等によるたんの吸引等の実施のための 制度の在り方に関する検討会(第5回) 議事録」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000012svd.html (2022年3月15日取得)
厚生労働省 2010(11) 「介護福祉士によるたんの吸引等の実施に関する本検討会の意見」, 今 後の介護人材養成の在り方に関する検討会 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000wnoo-att/2r9852000000wnsy.pdf (2022年3月15日取得)
厚生労働省 2010(12) 「2010年12月13日 介護職員等によるたんの吸引等の実施のための 制度の在り方に関する検討会(第6回) 議事録」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000012tmf.html (2022年3月15日取得)
厚生労働省 2010(13) 「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方につい て 中間まとめ」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000yreb-att/2r9852000000yrid.pdf (2022年3月15日取得)
厚生労働省 2010(14) 「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方 に関する検討会 要望書」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000bhqz-att/2r9852000000bkff.pdf (2022年3月15日取得)
厚生労働省 2010(15) 「橋本委員意見 第5回介護職員等によるたんの吸引等の実施のため の制度の在り方に関する検討会提出資料」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000wnoo-att/2r9852000000wo04.pdf (2022年3月15日取得)
厚生労働省 2010(16) 「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方につい ての今後の議論の進め方及び具体的方向(修正案)」 (2022年3月15日取得)https://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000jcmm-att/2r9852000000jcqy.pdf 
厚生労働省 2011(1) 「2011年2月21日 介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制 度の在り方に関する検討会(第7回) 議事録」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001beyn.html (2022年3月15日取得)
厚生労働省 2011(2) 「2011年6月30日 介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制 度の在り方に関する検討会(第8回) 議事録」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001maz0.html (2022年3月15日取得)
厚生労働省 2011(3) 「2011年7月22日 介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制 度の在り方に関する検討会(第9回) 議事録」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001uvy9.html (2022年3月15日取得)
厚生労働省 2011(4) 「省令等に規定する事項案」  https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001jvww-att/2r9852000001jw28.pdf (2022年3月15日取得)
厚生労働省 2012 「喀痰吸引等研修~研修課程(1)~」  https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/tannokyuuin/dl/4-1-1-1.pdf (2022年3月15日取得)
厚生労働省 2019 「医療的ケア児に関する施策について」, 厚生労働省社会・援護局 障害保 健福祉部 障害福祉課障害児・発達障害者支援室 難病・小児慢性特定疾病地域共生ワーキンググループ https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/000553177.pdf (2022年3月15日取得)  
厚生労働省 2020 「介護分野をめぐる状況について」, 社保審-介護給付費分科会第176回  https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000608284.pdf (2022年3月15日取得)
首相官邸 2010(1) 「新成長戦略~「元気な日本」復活のシナリオ~」 https://www.kantei.go.jp/jp/sinseichousenryaku/sinseichou01.pdf (2022年3月15日取得)
首相官邸 2010(2) 「介護・看護人材の確保と活用について 総理指示」 https://www.kantei.go.jp/jp/kan/statement/201009/27siji.html (2022年3月15日取得)
総務庁 1999 「要援護高齢者対策に関する行政監察結果-保健・福祉対策を中心として-(要 旨)」 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/hyouka/990924.htm (2022年3月15日取得)
内閣府 2010 「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」  https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kaikaku/s_kaigi/k_16/pdf/ref.pdf (2022年3月15日取得)
内閣府 2011 「規制・制度改革に係る対処方針(平成22年6月18日 閣議決定)」  https://www.cao.go.jp/sasshin/kisei-seido/publication/230909/item230909-2.pdf (2022年3月15日取得)
日本医師会 2009 「『特別養護老人ホームにおける看護職員と介護職員の連携によるケアの在 り方に関する検討会』について 」 https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20090610_1.pdf (2022年3月15日取得)
日本ALS協会 2005 「ALS患者に関する調査報告――吸引等に関するALS患者・家族の実 態と意見」 https://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/03/s0310-1c.html (2022年3月15日取得) 
日本ALS協会新潟県支部 2002 「『ヘルパー吸引』について坂口大臣陳情レポート」 
http://www.jalsa-niigata.com/newshouse-9/9-18l02-11-12.daijin.html (2022年3月15日取得)