1. 研究の背景
1960年代にアメリカでゲイ解放運動が勃興してから、同性愛者に関するさまざまな権利保障の取り組みが世界中で展開されてきた。その中でも同性カップルに対する法的保障は、1989年にデンマークでの「ドメスティック・パートナーシップ制度」の採択を皮切りに、北米やヨーロッパを中心に推進された。2000年以降には、婚姻を同性カップル間にも認める「同性婚」の流れが世界的に広まり、2022年7月1日までに世界31ヵ国で同性婚が認められるに至っている。このような世界的な同性パートナーに対する法的保障の流れに影響を受け、日本では2015年に初めて渋谷区と世田谷区で同性パートナーシップ条例が導入され、現在では全国223の自治体(2022年7月1日時点)でパートナーシップ制度が取り入れられている。 しかし、こうした同性カップルへの法的保障は、様々な反対意見に晒されてきた。たとえば、アメリカとカナダで行われた調査では、特に宗教的な背景からなる性的偏見が同性婚への反対意見に繋がっている(Jojanneke van der Toorn et al.[2017])とされている。また、風間[2003]は、アメリカ・バーモント州の同性婚訴訟を例に挙げ、「同性カップルは単に生殖や育児をともなわないという理由で婚姻を否定されるのではない。近代社会における人間の(再)生産が,規範的異性愛家族のもとでジェンダーの(再)生産に寄与しなければならないがゆえに,その条件を満たさないものとして否定されるのである」(風間 [2003:40])とし、規範的異性愛家族に組み込まれたジェンダーの(再)生産の思考が、同性カップル排除へ影響していると考察している。 上記のように、海外における同性パートナーへの法的保障は特に宗教的な背景からなる異性愛規範・ジェンダー役割の規範を中心に反対される例が多く、風間の論をはじめ、日本における同性カップルへの法的保障をめぐる議論は、そうした海外の事例を参照しながら展開されるものが主であった(善積 [1995],笠原 [2007])。しかし、堀江[2010]は、日本における同性パートナーへの法的保障について、欧米の状況や法、理論を用いて応えようとする流れに疑義を呈す。堀江は、同性間の法的保障に反論する意見(=同性愛に反対する意見ではない。堀江は「同性愛者の人権擁護――少なくともレズビアン/ゲイに関する社会運動の内部もしくは支持――の立場からの「反論」である」としている)を分析し、日本独自の法制度(戸籍制度)の問題や、その背景にある天皇制の問題について見過ごされてきた点を指摘する。日本にある「戸籍制度」は「家」意識を残存させ、家父長制を温存する装置であり、同性婚以前に様々な差別(性差別,婚外子差別,部落差別,外国人差別など)の温床となっているという。このような堀江の指摘は欧米とは違う日本独自の夫婦関係や家族制度の存在を示唆するものであり、日本の「同性パートナーシップ制度」に反対意見をもつ人々へも影響があると考えられる。 また、日本において数少ない「同性婚への反対意見」を取り上げた研究として、清水[2008]がある。清水は、日本において同性婚に反対する7つの論点を提示し、反対意見への反駁を試みた(7つの論点:①「婚姻とはそもそも『男女』による『生殖』を伴うものである」、②「同性愛者が増加し、種の存続に危機が生じる」、③「子の福祉への悪影響がある」、④「法的保障など必要ない」、⑤「同性婚などの法的保障の前にやるべきことがあるのでは?」、⑥「同性婚以外の保障方法で十分である(または、その方が望ましい)」、⑦「婚姻制度を放棄すべき」)。しかし、清水の提示する反対の論点は、実証的な研究から見出されたものではなく、反対する人々が本当に清水の論点を重要視しているのか、挙がっている論点だけが反対をする理由なのか、実態は不明瞭である。清水の論文は2008年に書かれたものであり、同性パートナーシップ制度が日本で初めて施行された2015年からさらに期間が経過した現在(2022年7月時点)では、社会状況が大きく異なることが予想される。 そのため、日本において同性カップルへの法的保障をめぐる反対意見の現状を調査することは、日本における婚姻制度や夫婦・家族の在り方についての現在の実態を把握するとともに、パートナーシップ制度が広く全国に広まりつつある中で、実態が伴わない議論によって推進派と保守派の分断が深まる可能性を軽減し、両派にとって考えるべき論点を提示するという意義がある。
2. パートナーシップ制度に対する反対意見の調査
2-1. 調査目的
本研究は、2022年1月〜7月までの期間でパートナーシップ制度施行に至った自治体に寄せられた反対意見を調査し、現在の日本における反対意見の実態について明らかにすることを目的とする。
2-2. 調査方法
―対象
本調査では、2022年1月1日〜7月1日までにパートナーシップ制度が施行された自治体の中で、市民からパブリックコメントを集めインターネット上に公開しており、かつ、「パートナーシップ制度」の策定に反対する意見があった10カ所(埼玉県熊谷市、千葉県市川市、千葉県習志野市、東京都荒川区、東京都多摩市、神奈川県平塚市、静岡県静岡市、愛知県岡崎市、兵庫県姫路市、鹿児島県鹿児島市)の自治体を対象とする。 上記10カ所の自治体を取り上げた理由について、まず、2022年1月1日〜7月1日までの間でパートナーシップ制度を施行した自治体は全体で82カ所であった(以下、表内参照)。そのうち、パブリックコメントが公表されているのは24カ所であり、さらにそのうち14カ所の自治体では「パートナーシップ制度策定に向けた反対意見」は見られなかったため本調査から除外し、反対意見のあった該当の10カ所の自治体を取り上げることとした。
<2022年1月〜7月1日までにパートナーシップ制度が施行された自治体(82カ所)>
※パブリックコメントがネット上で閲覧可能な自治体には名称の後に「(パ)」と記載 ※パブリックコメントがネット上で閲覧可能かつパートナーシップ制度の策定に反対する意見があった自治体には、名称の後に「(パ・反)」と記載
パートナーシップ制度が施行された自治体の情報については、「認定特定非営利活動法人 虹色ダイバーシティの『渋谷区・虹色ダイバーシティ 全国パートナーシップ制度共同調査』で集約された『【集計用Excelデータ】20220630_date』」に記載のある自治体を基準として調査を行った。
―方法
以下の手順でパブリックコメントの反対意見を抽出・カテゴリー分けした。 ①2022年1月1日〜7月1日の調査期間内にパートナーシップ制度が施行された82自治体のうち、パブリックコメントを募集しており、かつ、パブリックコメントの内容がネット上で公表されている24自治体を抽出した。 ②24自治体に寄せられたパブリックコメントの数を集計すると1025件であった。 ③集計した1025件のパブリックコメントのうち、パートナーシップ制度の策定について反対する意見を抽出した。反対意見は10自治体で187件あった。 ④187件あった反対意見内に理由が複数ある場合には理由ごとに意見を分け、あらためて集計した。集計数は298件となった。 ※④の分類例:以下の反対意見からは4つを抽出し、4つの意見とした。
⑤298件をその内容から59項目に分けた(小区分分類)。 ⑥最後に、59項目の意見をさらに16の範疇にまとめた(大区分分類)。 なお、本調査は、各地方自治体があらかじめ調査を行い取りまとめたデータを使用しているため、②で示した1025件の意見は、1025人の意見であるとは限らず、地方自治体によっては1人の意見をいくつかに分けている可能性がある。また、ネット上で公開されているパブリックコメントは全地域のうちの一部であり、2022年1月1日〜7月1日にパートナーシップ制度が施行された全地域の反対意見を網羅することはできなかったため、あくまで今回取り上げる10自治体のみの反対意見の実態であることは注意する必要がある。加えて、パブリックコメントの特性上、反対意見を持つ人々の背景について理解を深め、問題意識を共有するまでの調査は難しい状況であった。そのため、反対意見を持つ人々が「なぜ、どのような理由から反対するのか」というより深い個人・社会的背景への調査については、今後の研究の課題としたい。
2-3. 調査結果
各自治体の制度及びパブリックコメントの概要
本調査では、以下10カ所の自治体(埼玉県熊谷市、千葉県市川市、千葉県習志野市、東京都荒川区、東京都多摩市、神奈川県平塚市、静岡県静岡市、愛知県岡崎市、兵庫県姫路市、鹿児島県鹿児島市)の分析を行った。該当の自治体のパートナーシップ制度及びパブリックコメントに関する情報は表1に示す通りである。 10カ所の自治体を地方区分に分けると、関東地方(6カ所)、中部地方(2カ所)、関西地方(1カ所)九州地方(1カ所)と、関東地方が多くを占める結果となった。これは、パブリックコメントを公表している自治体が関東圏に寄っている影響が大きいと考えられる(82自治体全体:北海道(3カ所)、東北地方(3カ所)、関東地方(35カ所)、中部地方(11カ所)、関西地方(4カ所)、中国地方(4カ所)、四国地方(11カ所)、九州地方(10カ所))。 また、パートナーシップ制度自体は、東北地方や中国地方、四国地方においても3つ以上の地域で施行されているが、いずれの3地方でもパブリックコメントの収集及び公表は見られなかった。石原[2017]の同性愛に対する寛容性に関する地域調査では、「同性愛に対する寛容性得点」の平均値の低い地域として東北地方・中国地方・四国地方の3地方が示されており、各自治体が地域の特性を加味し、パブリックコメントでの意見収集自体を事前に避けた可能性もある。そのため、今回調査した10カ所の自治体以外にも反対意見が挙がっている可能性は高いだろう。
自治体の規模は、市が9カ所、区が1カ所(東京都荒川区)でそれぞれの地域の人口は15万人程度〜70万人程度、意見募集期間は15日間〜40日間、と大きな開きが見られるものの、パブリックコメントとして寄せられた意見数及び反対意見の数への相関は見られなかった。ただし、鹿児島県鹿児島市については、パートナーシップ制度に関する資料を閲覧できる場所が160カ所と他地域に比べると多かったため、意見数が多く挙げられた可能性が考えられる。 パートナーシップ制度自体に関して言えば、制度の名称は、①「同性パートナーシップ制度」(東京都荒川区)②「パートナーシップ制度」(東京都多摩市)、③「パートナーシップ宣誓制度」(鹿児島県鹿児島市、埼玉県熊谷市、東京都平塚市、静岡県静岡市)、④「パートナーシップ・ファミリーシップ制度」(千葉県習志野市、愛知県岡崎市)⑤「パートナーシップ・ファミリーシップ届出制度」(千葉県市川市)の5種類に分けられる。このような変遷からは、日本でのパートナーシップ制度が、対象者や要件を広げていることが読み取れる。2015年に日本で初めて同性パートナーシップ制度が導入された渋谷区では、その対象者を「同性カップル」のみに限定していたが、本調査の10自治体の内、「同性のみ」を対象としたパートナーシップ制度は東京都荒川区のみであり、これは2022年7月1日まで制度導入をした82自治体全体で見ても唯一の自治体となる。つまり、同性カップルへの保障を名目としてスタートした「同性パートナーシップ」制度ではあるが、現在はそのほとんどが同性カップル以外も対象としている。 また、制度の根拠となる規則の種類は、条例か要綱のどちらかであり、9カ所(埼玉県熊谷市、千葉県市川市、千葉県習志野市、東京都荒川区、東京都多摩市、神奈川県平塚市、静岡県静岡市、兵庫県姫路市、鹿児島県鹿児島市)は要綱での制定、愛知県岡崎市のみが条例での制定であった。制度の対象者(要件)は、全体に共通して「年齢:成年であること」「住民登録:(一方または双方が)市/区内に在住していること」「関係:近親者でないこと」「パートナーの存在:双方に配偶者/パートナーがいないこと」の4点が挙げられた。ただし、配偶者については、婚姻関係のみか事実婚関係も含むかは、自治体ごとに差が見られた。 加えて、近親者については、パートナー関係で養子縁組を行っていた者であれば近親者からは除外する自治体も存在した。対象者に差が見られた項目としては、「当事者同士の婚姻なし」(静岡県静岡市)、「同性パートナー関係である」「他に同性パートナーシップ関係なし」(東京都荒川区)「受理証明書の取消し無し:偽りその他不正の手段により、受理証明書等の交付を受けた、又は受理証明書等を改ざんし、又は不正に使用したことにより受理証明書を取り消されたことがないこと」(愛知県岡崎市)、「ファミリーシップの届出は、双方又は一方に未成年の子がいること」(千葉県石川市)、「相手と同居か同居予定あり」「ファミリーシップ宣言の場合、未成年の子と同居義務」(千葉県習志野市)が挙げられた。 パブリックコメントの収集については、意見の募集期間は15日間〜40日間で、平均して30日前後の自治体が多くあった。意見の提出方法は、主に「持参」「郵便」「ファクシミリ」「電子申請」が取り入れられており、一部「電子メール」で提出可能な自治体もあった。閲覧場所については自治体によって差が大きく、東京都平塚市の「市ホームページ」のみでの閲覧もあれば、鹿児島県鹿児島市は、市政情報コーナーや各支所など含め166カ所の閲覧場所を設置しており、広報が広範囲に及んでいる結果として意見の総数が多くなった可能性もある。
パートナーシップ制度に対する反対意見
本調査対象の10自治体で集計されたパブリックコメント総数は812件であった。そのうち「パートナーシップ制度の策定に反対する意見(※パートナーシップ制度を容認の上で、制度の一部について改善策や懸念点を提示する意見などは除外)」は187件であった。187件の反対意見の内容を細かな要素に分けて集計すると298件の意見が挙げられた。298件を同意見ごとに分類し、小区分として59件の意見としてまとめたものは表2に示す通りである。さらに59件を大区分に分類し、最終的に16項目が抽出された(表3、表4)。
反対意見の調査(大区分)で最も多く挙げられた意見は「制度導入の速度、情報/議論不足に関すること」(75件)であった。具体的には「議会で議論すべき/議論不足」「制度の内容が不明瞭/説明不足」「慎重な検討が必要/今ではない」「国の見解を待つべき」という意見で、全体の約4分の1(25.1%)を占めている。この結果から、そもそもパートナーシップ制度について理解できていない人も多く、議会などで十分な検討がなされないまま、制度の導入だけが進むことに不安を感じる人々が多いと考えられる。 反対意見として次に多く挙げられたのは、「制度の必要性に関すること」(49件)で、「当事者が望んでいるのかわからない」「利用に必要性を感じない」という意見が多く見られた。「利用者(当事者)の要望」が具体的に見えずに、当事者の持つ問題意識や、問題の解決策としてパートナーシップ制度を導入するという意義が共有できず、必要性に対して懐疑的になる人々や、特に当事者でない人々には制度の利点に想像が及ばない可能性もある。 また、25件前後の意見として、「婚姻制度・戸籍に関すること」(29件)「性的指向・性自認・性の多様性に関すること」(27件)「家庭・家族に関すること」(24件)が挙げられた。「(男女の)婚姻制度や家族制度が崩れる」といった内容は、アメリカ(小泉[2017])や台湾(徐[2018])など、すでに同性婚が容認された国々でも多く見られる意見であるが、日本でも同様に重要視されていることがわかった。小区分に示された意見からは、パートナーシップ制度自体への反対以上に、パートナーシップ制度が認められることで、「重婚」「一夫多妻」「近親婚」「事実婚」「夫婦別姓」など、様々な婚姻関係や夫婦関係が生まれ得る可能性に対しての危惧が強く、晩婚や離婚に問題意識を持ち、一生独身で過ごす異性愛者への支援要請の声も複数見られた。「性的指向・性自認・性の多様性」については、そもそも同性愛や性別違和を始め、多様な性の捉え方や存在自体に対して懐疑・否定的な意見が複数見られ、「性」自体への捉え方・考え方のばらつきが多い結果となった。 次いで、15件前後の意見としては、「子どもに関すること:育てる」(17件)「憲法・法律に関すること」(14件)と「子どもに関すること:産む」(12件)が挙げられた。憲法・法律については、特に憲法24条の「両性の合意のみに基いて成立」という点と、「法的根拠のないパートナーシップ制度が婚姻と同等の権利がある点に矛盾が生じており、法律に抵触するのではないか」という点に言及する意見が見られた。 子どもに関しては、子を産むことに関する意見と、子育てに関する意見に差異が見られたため、同じ「子」に関することだが分けて集計を行った。子を“産む”時点での反対意見については、「同性同士では子どもを産めない」という点から、「少子化へつながる」という論調へ繋げる意見が多く見られた。また、少子化に繋がるからこそ、「同性愛が増える」可能性を危惧し、子育ての側面として、「男女のジェンダー役割を両親から学ぶことで子どもが健全に育つ」と考える意見も見られた。違う観点としては、「虐待や離婚が生じた場合、パートナーシップ制度では子どもの人権を守ることができないのではないか」という子を守る義務という側面からの懸念が示された。 10件以下の意見としては、「非当事者の生きづらさに関すること」(10件)として、当事者を受け入れられないことで逆差別の恐れがあることが挙げられ、「性的少数者といえば議論さえ許されない」という恐れや、少数者が特別・優越的になることに不安感を覚える意見も見られた。「パートナーシップ制度以外の施策に関すること」(10件)としては、性的少数者の啓発について積極的に進めるなど、パートナーシップ制度以外の方法を先に検討するべきであるという意見があった。こちらの意見は、制度に対して否定的な立場(パートナーシップ制度以外の方法を取るべきだ)も、肯定的な立場(パートナーシップ制度を先に導入しても、まだ人々の理解が追いつかずに当事者もかえって傷つく)も存在しており、6件の意見があった「性的少数者の生きづらさに関すること」の中の、「当事者が特別視され、かえって差別される」という意見とも繋がる部分が見られた。 「犯罪の懸念に関すること」(9件)では、漠然と「犯罪が増える」という意見と、トランスジェンダー女性が女性のスペースを使用することに対しての懸念が挙げられ、パートナーシップ制度がそれを後押しするという論調が複数見られた。「手続き上の問題/行政の仕事に関すること」(8件)については、具体的な手順の煩雑さについて意見がなされた。「政治的な立場に関すること」(3件)、「日本の伝統・文化・価値観に関すること」(3件)については、一部地域のみ(鹿児島市のみ)の意見が見られた。ただし、3件ともパートナーシップ制度について「特定の政党の政治思想/国家破壊に繋がる」という文脈で使用されており、近しい関係の者がコメントをした可能性がある。そのため、地域による差異であるとは言い難い。日本の伝統や文化の少数意見ではあるが「制度の対象者に関すること」(1件)として、同性以外にもパートナーシップ制度の枠組みを広げてほしい要望も見られたが、パートナーシップ制度の名称及び対象者の全国的な広がりにより、このような意見は少なくなりつつあると考えられる。
3. おわりに
これまでの研究では同性カップルへの法的保障をめぐる反対派の意見は、たんなる「反対意見」としてまとめられ、 “何を問題として捉え反対しているのか”が不明瞭なままとなっていた。調査の結果、反対意見は16の項目に分類することができ、中でも「制度導入の速度、情報/議論不足に関すること」として、制度の説明不足や議論不足が反対意見に大きな影響を与えていることが判明した。パートナーシップ制度をめぐる議論では、いかにして市民に伝わるような情報の伝達・問題意識の共有をできるかが、重要であるといえるだろう。
■文献
- 堀江 有里 2010 「同性間の〈婚姻〉に関する批判的考察――日本の社会制度の文脈から」,『社会システム研究』21:37-57
- 徐 慧怡 2018 「同性婚・同性パートナーシップ制度の可能性と課題――社会の現状,問題と対策」, 新・アジア家族法三国会議『同性婚や同性パートナーシップ制度の可能性と課題』:39-58, 日本加除出版株式会社
- 清水 雄大 2008 「同性婚反対論への反駁の試み――『戦略的同性婚要求』の立場から」,『Gender and Sexuality : Journal of the Center for Gender Studies, ICU』3:95-120
- 石田 仁 2019 「同性婚に対して『伝統的家族の喪失』ならびに『非生殖ゆえ好ましくない』と考える人々の意識を規定する要因は何か――性・年齢層別分析」,『明治学院大学社会学部付属研究所研究所年報』49:63-74
- 風間 孝 2003 「同性婚のポリティクス」,『家族社会学研究』14-2:32-42
- 小泉 明子 2020 『同性婚論争――「家族」をめぐるアメリカの文化戦争』,慶應義塾大学出版会
- Jojanneke van der Toorn; John T, Jos; Dominic J, Packer; Sharareh Noorbaloochi; Jay J, Van Bavel 2017 “In Defense of Tradition;Religiosity, Conservatism, and Opposition to Same-Sex Marriage in North America”,Personality and Social Psychology Bulletin, 43-10:1455-1468
- 堀江 有里 2016 『レズビアン・アイデンティティーズ』,洛北出版
- 笠原 俊宏 2007 「オランダ登録パートナーシップ抵触法」,『東洋法学』51-1:215-234
- 石原 英樹 2017 「性的マイノリティをめぐる地域環境――『世界価値調査』による地域差分析と地域サポート組織の取り組み」,『明治学院大学社会学・社会福祉学研究』147:1-20 Equal Marriage Alliance 2021 「世界の同性婚」,NPO法人EMAホームページ, (2022年7月19日取得, http://emajapan.org/promssm/world).
- 虹色ダイバーシティ 2022 「渋谷区・虹色ダイバーシティ 全国パートナーシップ制度共同調査」, 虹色ダイバーシティホームページ(2022年7月20日取得, https://nijibridge.jp/)
- 善積 京子 1995 「スウェーデンのカップル形成の三形態」,『追手門学院大学人間学部紀要』1:159-178